日本におけるエシカル消費。個人でできることと農家の応援ーアグリビジネス論Vol.12

日本におけるエシカル消費。個人でできることと農家の応援ーアグリビジネス論Vol.12
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公開日:2022.10.18

今回は日本における「エシカル(倫理的)消費」の浸透具合ついて解説し、これからもっと浸透するにあたっての課題や、個人でできるエシカル消費についてお話いたします。

目次

はじめに

つい先日、NHKのクローズアップ現代で、水産業に大きな「闇」があるという問題が起きていることが報道されました。その内容はまさにエシカル消費に関するもので、不当な奴隷的扱いで労働者を酷使して獲られた魚が日本においても流通しているというニュースです。

この中で取り上げられているIUU漁業(違法Illegal・無報告Unreported・無規制Unregulated)については、同番組の取材ノートとみると非常にわかりやすいのですが、今回取り上げられた漁業における「闇」においてはさらに労働者の権利が守られていないものについては流通させない、というスタンスが必要になります。

以前、フェア・トレードについても取り上げましたが、欧米ではいち早くこういった不当な労働に関わる流通をさせないための仕組みづくりが行われています。では、日本ではどうでしょうか。

エシカル(倫理的)消費の日本における浸透具合

エシカル(倫理的)消費の日本における浸透具合

日本においてエシカル消費を知るきっかけとなったのは、チョコレートだという人が多いのではないでしょうか。

チョコレート業界では近年非常に注目を集めた起業家がいます。「Dari K」という会社です。そのコンセプトはカカオ豆農家も大切にした、『あるべき流通のすがた』を目指しておられます。こういった起業家の台頭や、バレンタイン商戦の商材であっても、『地球環境』『フェアトレード』に配慮した商品が百貨店などで並ぶようになり、徐々に多くの人に知れ渡るようになってきたと考えております。

しかし、冒頭に取り上げられた水産業におけるフェアトレードや、日本国内における農業者の収益に配慮したような報道はまだまだ珍しいといわざるを得ません。なぜ日本ではそういった報道が少なく、かつエシカル消費への認知が広まらないのでしょうか。

以前にも取り上げましたが、日本におけるエシカル商品の認知度は、欧米に比べるととても低い状態です。

日本における「エシカル消費」はなぜ認知が低いのか

2020年の上記調査によると、「エシカルという言葉の意味を知っていますか?」という問いに対して、知っている7.2%、なんとなく知っている15.8%、合計しても23.0%の認知度に留まっています。

その中でも若い世代ほど認知度は高く、20代で30.7%ではありますが、さらにエシカル消費の消費行動を増やしていくにはどうしたらいいのでしょうか?

エシカル消費の実施条件

上の図は、株式会社電通が2020年に行ったエシカル消費に関する消費者への調査結果に、興味深い結果があります。

「エシカル消費の実施条件」という問いで、価格やメリットがわかるという消費行動の他に、『自分の関心がある問題に関する商品(31.0%)』であることや、『環境問題や社会問題に貢献することがきちんと理解できれば(25.7%)』という割合も多くを占めているのがわかります。

ここから見えるのは、問題や課題を解消すれば、消費増につながる可能性です。もちろん最大の課題として価格の問題がありますが、これについては後で述べます。

前回の記事でも指摘したように、欧米では多くの人が、エシカル消費に関わる食品・商品を自らの意志で選んでいます。
逆にそれに反する食品・商品は【自らの判断に従って拒否】しています。例えば冒頭にあげたように『労働者が不当な条件で過酷な労働を強いられた結果漁獲された魚がある』や、『不必要に二酸化炭素を排出するような過程で作られた食品がある』『他国の水資源を多く使わせてしまう食品がある』といったものは明確に拒否をするよう至っています。

これは、欧米では社会問題環境問題の多くを自分事としてとらえて、多くの問題の原因を自ら調べて、自分の判断基準に従って消費行動を選択する、という流れができているということです。

一方、日本ではどうでしょうか?
日本において食品に関する意識がそこまで高まっていないと感じます。その理由は大きく2つあると考えています。

食品への意識が低い理由2:食品に関する報道の偏り

理由1:食品に関する報道の偏り

日本において食品に関する意識がそこまで高まっていない原因の1つ目は、食品に関する報道が、『値上がり』『旬(グルメ的な報道)』などの情報提供に偏りすぎ、生産者の苦労や流通事情などの詳細な分析などがあまり報道されないことにあると思います。

具体的には、『台風の影響、大雨の影響で野菜がとれず、小売価格が上昇』という、消費者にとってどれだけ影響が出るかという報道が多いことを指摘しています。もちろん、消費者にとって買い物の際に野菜が高騰していることは家計に直接大きな影響があるので困りものです。しかし、この事情の背景にある野菜の流通事情に対して目を向ける必要もあります。

以前の記事でも書きました通り、生産者は需要に応じて作付面積を増減させにくい理由があります。

作物が多く収穫できたり、消費者の需要が減った場合、リアルタイムで把握できないため、市場に予想より多くの野菜が出回ってしまうこともあります。この場合、野菜を畑で廃棄して次回作付けの肥料としたりして、市場への出荷量をコントロールすることで価格の維持を図っています。
しかし、そういった流通事情は細かく報道されません。野菜が畑でつぶされていく様子を誤って「フードロスが発生している」といって誤解を生むこともあります。もちろん廃棄する行為を農家も決して喜んでいるわけではなく、苦渋の決断なのですが、フードロスとは違います。

一方、台風や大雨で野菜の収穫ができず、極端に供給が減ってしまった場合、野菜は高騰することになります。ではこの高騰で農業者や中間の流通業者は儲かっているのかというと、必ずしもそうとは限りません。 いくら供給が少ないからといって、例えばキャベツ1個が1,000円という値段ではスーパーで売れません。せいぜい値上げしても1個400円位でしょう。実際供給量があまりに少なく、本来は農家にとってみれば1,000円で買ってもらわないと困る(それだけしか採れていない)という状況でも、実際の販売可能価格の範囲内で卸さなければならないこともあります。この場合、農業者だけでなく流通事業者も損をしていることがあります。扱い量と単価が著しく低くなれば流通事業者も利益が出ないということです。

そういった苦しい事情も報道してもらったうえで「野菜が高い」ということならば農業者も納得がいくかもしれませんが、現在の多くの報道はその高い価格でも農業者が苦しんでいる状況までは伝えていないのではないでしょうか。

食品への意識が低い理由2:作りすぎ、買いすぎのフードロス

日本において食品に関する意識がそこまで高まっていない原因

日本において食品に関する意識がそこまで高まっていない原因の2つ目は、フードロス問題です。これは年々多くの人に認知されていきていますが、そもそもが「作りすぎ」「価格が安すぎる」ことによる『消費者の買いすぎによる家庭での廃棄』『流通段階での廃棄』などの側面にはあまり意識が向いていないと考えています。

特に、コロナ禍において、飲食店の客数の回復が思わしくないことで、飲食店に出荷されるはずの商品が倉庫に眠ったまま賞味期限を迎えてしまうなどの問題も出ています。また、家庭の食べ残しや賞味期限切れの発生もまだまだ多い状況です。

食品ロス

環境省による「我が国の食品ロスの発生量の推移」をみると、現在は減少傾向にありますが、引き続き今後の推移を見守る必要があります。

こういった食品ロスを発生させないためには、昔から日本で言われている「もったいない」の意識をもっと強く意識することが必要ではないかと考えます。スーパーで、安いからといって買いすぎ、まとめ買いをしたくなる気持ちもわかりますが、こまめに買う方がロスを発生させにくいのです。

日本においてエシカル消費は、身近な「フードロス」問題だけでなく、フェアトレード、カーボンフットプリントなど様々な視点で考えなければならないのですが、なかなかそこまで浸透していません。それは、食という生活に必要なものに対して、『美味しい』『人気』『こだわりの料理店』など、ある意味とても豊かな情報に恵まれているからではないかと推察しています。

海外でも、もちろん人気料理店や料理イベントなどの情報もたくさんあります。しかし自分の生活・衣食住が『どのような人たちに支えられ』『その人たちはどのような暮らしをしているか、私たちのせいで人権が守られていないようになっていないか』ということに関しての意識も同じくらい高いです。

これからは、美味しい洋菓子店の新商品と同じくらい、食の成り立ちや生産者の事も考えられるように自分の消費物を見直すことができるか?エシカル消費を浸透するには、その啓蒙活動ができるかどうかにかかっているといえます。

個人でできるエシカル消費

個人でできるエシカル消費

では、私たちにできるエシカル消費とは何でしょうか。

まずは、食の生産に関する知識を高めることなのですが、大切なのはやはり「地産地消」「国産国消」だと思われます。国産の米を食べることは、米の生産者の減少を防ぐことに繋がります。肉も美味しいですが、全国各地で獲れる旬の魚を食べることにもぜひ取り組んでください。夏から秋にかけてのタチウオや、カワハギ、冬にかけては鯖やさわらなど、日本近海で獲れる魚、珍しい魚などもぜひ買って食べてみることをおすすめします。バレンタインでチョコレートを買うとき、コーヒーを飲むときは、その生産国やフェアトレードの表記を気にしてみてください。

そして、家庭では、食べ残しなく、美味しい食材を美味しいうちに食べきる、使い切ることを目標に買い物をしてほしいと思います。それが一番のお金の節約でもあります。

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。

ライター情報

  • Noumusubi
  • 片桐新之介

    フードビジネスコンサルタント。京都文教短期大学と吉備国際大学でフードツーリズム、フードビジネス論の講義もしています。得意分野はお酒と魚。百貨店食品部での経験を活かし、様々な面で農家や水産業者を支援。6次産業化プランナー、兵庫県マーケティングアドバイザー。まちづくりのコンサルも行っています。

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