ドローンにAI農業って⁈ 農業におけるIT活用についてやさしく解説(生産編)―アグリビジネス論Vol.3

ドローンにAI農業って⁈ 農業におけるIT活用についてやさしく解説(生産編)―アグリビジネス論Vol.3
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020.01.27

農業界においても様々な場面でIT技術が活用されています。どんな技術がどんな場面で役立っているのでしょうか?農業界におけるITの活用と課題について「生産」「流通」に分けてお伝えします。

目次

農業「生産」における課題

日本の農業においては、様々な課題が挙げられています。一つは、生産者の高齢化という問題です。高齢の方では、おおよそ体力を必要とする作業が困難になっていきますし、体調面の心配もあります。炎天下の中長時間の農作業によって、体調を崩した農家のニュースなどをご覧になられた方もいるかもしれません。

加えて、地方では特に少子高齢化が進んでおり、農家自体が少なくなるだけでなく、農繁期(例えば、田植えや収穫の時)に、臨時的に労働力となっていた人も減っています。

農業生産においては多くの「作業」を必要とします。田植えや農薬・肥料の散布、そして収穫といった、直接生産物に触れる作業だけでなく、雑草の除去、圃場の整備といった作業、収穫した作物の選別や箱詰めなどの作業も多くあります。こういった作業をいかに『省力化』するかが農業の課題と言われています。

加えて、農業生産においては多くの「情報」が必要となります。圃場において必要なのは天候などの環境データ、耕した日、種をまいた日、そして投入した農薬や肥料の量や内容を記録する作業データなどです。このような情報をいかに『収集、保存、分析』して、のちの農作業に『活用』できるかが農業生産における課題と言われています。

熟練農家の「ノウハウ」も大切な情報です。日本において農業後継者がいない、少ないという問題については、こういったノウハウが誰にも伝わらず、技術の衰退、ひいては作物の品質ダウンにもつながります。海外に高品質な野菜を輸出する、という戦略に躓きが出ることにもなります。

IT技術の活用と、広まるための課題

先に述べたような課題に対して、すでにいろいろな「IT(ICT)技術」が導入されつつあります。そのいくつかをご紹介いたします。

・作業情報の管理、蓄積

複数の作業員が作業するような広い農場などでは、日々様々な作業があり、管理が大変です。熟練作業者ばかりというわけにもいかないので、まだ技術が確かでない作業者がどんなことをしたのかをチェックもしなければならないのですが、広大な圃場だと大変です。

どこでどんな作業を指示、指導をしたか。だれがどこでどんな作業をしたかをタブレットなどで画像や動画とともに記録し、作業日報を自動的に作成したり、管理者がチェックしやすくなるような仕組みが広く普及しています。もちろん、作業のデータは蓄積され、翌年以降も活用されます。収穫量や品質を確かめつつ、作業自体の簡略化などの改善にも役立ちます。

・環境情報管理

ビニールハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度などの環境情報を把握し、調整・管理するシステムです。ビニールハウス内に何カ所か設置されたセンサーが温度などを検知し、温度湿度の高低を空調などで調整します。トマトやイチゴの栽培などで活用されているところが多いようです。

・生育情報の管理と活用

農業においては、日々農産物の状況が変化します。状況を見極めながら、いつ頃に追肥を行うか、農薬を散布するか、そして収穫するか。過去のデータも統一的に管理しながら、発育状況を記録し、いつに次の活動をするべきかを示唆してくれます。近年では、圃場のカメラやドローンによる撮影から画像で発育情報を分析し、対応をしてくれるところまでシステムの開発・実践が進んでいます。

・自動運転技術による播種、収穫など

TBSで放映されたドラマ「下町ロケット」をご覧になられた方も多いと思いますが、自動でトラクターやコンバインが走り、耕運や収穫を行う「無人農業ロボット」が実用化されつつあります。農林水産省の定義では、農業機械の自動運転には3段階のレベルがあり、下町ロケットで放映されたコンバインはレベル2にあたります。圃場に人間が行って、立ち合ってトラクターの動きを管理しています。いずれ、遠隔作業での完全無人農業ロボットが登場すると思われます。そうなると、農業の担い手不足の解消、障がい者への仕事づくり、農作業中の事故の解消(熱中症など含む)など、多くのメリットが期待されています。

佐賀県の農業ベンチャー企業では、ドローンが空中から葉物野菜の圃場を映像で撮影し、害虫の発生を認めると、その部分にピンポイントで農薬を散布し、被害の拡大を防ぐ技術が開発されています。この技術は、農薬使用量を次第に減らし、手間のかかる有機栽培の普及に寄与することなどが期待されています。

こうした技術のデータ収集母数が増え、AIの活用により分析力が飛躍的に高まっていることと併せれば、日本の農業の大きな発展が見込まれますが、そこには一つ大きな課題があります。それは、当然のことながら費用です。センサーの費用、設置にかかわる費用をはじめ、ノウハウをためて幾度の失敗などを経て構築された自動運転や分析のソフトウェアの開発費用などをだれが負担するのかということです。

農業者だけがこれを負担できるでしょうか?省力化や農薬減少によってコストを次第に減らすだけでは賄いきれることにもならず、価格への転嫁になることが予想されます。その場合、消費者がそれを納得して購入できるのだろうか、という問題が発生します。

農業者への開発費用の負担というのではなく、農業に対する様々な補助金を、今後中期的に見直し、こういった技術やソフトの開発に投資していくことが必用ではないかと考えています。

これからの農業生産におけるIT活用

これまで紹介した技術は、主に農業において「データの蓄積」「管理、作業の省力化」「自動化、無人化」をすすめるものでした。加えて、これからの農業では「ノウハウの継承」がさらに注目されていくと思われます。いわゆる「熟練農家」の技術をIT技術によってデータ化し、またそれを一般の人でも使えるようにしていく、というものです。

2012年から2015年までの間、福岡県のJAふくおかと香川県の協力を得て、慶應義塾大学環境情報学部、神成准教授(肩書は当時)によって、ミカンの栽培技術の調査分析が行われました。こちらの詳細は、2017年に刊行された神成淳司著作の「AI農業 (日経BP社)」に詳しく書かれていますが、一部のみご紹介いたします。

みかんは樹に実るのですが、収穫作業だけでなく、枝の剪定、摘果と呼ばれる間引き、そのほか気候に応じた枝の調整や葉の調整などの作業があります。これら作業は非常に習得に時間を要します。というのも、一つ一つの作業に取り組む頻度は、それほど高いものではないため、経験値がたまることが少ないのです。加えて、枝の剪定などは樹の成長に影響を与え、その年だけでなく次の年以降の収穫にも影響します。この枝を落とすとダメージが残ってしまう…。ではどこを剪定するか?そういった判断は熟練者の経験に基づくものとなります。加えて、山の斜面の向き、土壌、生産品種などによって判断するポイントが異なることも多いということがあります。

 そこで行われたのが、「熟練農家」の行動を分析し、データとして蓄積することでした。剪定作業中に熟練農家にアイカメラを装着いただき、「どこを見て作業をしているか」の特徴を洗い出す、という実験を行いました。比較として、熟練者ではない人にもアイカメラを装着してデータを取りました。
結果としては、熟練の人とそうではない人には「視線の位置」などで大きな違いがあることが分かりました。視線の動きも無駄がなく、樹の全体などを隈なく見ていることが分かりました。

また、学習支援システムを作成しました。みかんの摘果前の写真を熟練農家や農業指導員が撮影し、どの身を摘果したらよいかをスマホやタブレットで回答する問題集にできる仕組みを作りました。手軽に問題を作成できるようにして、素人の方にそのシステムで事前研修を受けてもらい、研修を受けていない人との作業の内容を比較する実験を行った結果、研修を受けた人は、短い時間でもありながら大きな効果が得られることが分かりました。またこのシステムは香川県内の農家で作成したものですが、同じ香川県ですが違うエリアの農家でも実験をしたところ、そこでも有効であることが確認されました。

このように、農作業において習熟度による差異を可視化し、映像でそれが分かりやすく伝わる学習コンテンツが作成できるようになっております。

若者が就農することを国や地域は求めていますが、作物によっては、良い品質のものが作れるようになるまでに相当の時間を要します。その結果、強い意志があったにもかかわらず、収入面の問題で農業を続けることをあきらめてしまうこともあります。この学習コンテンツが様々な作物に広がれば、若い人の就農と、事業継続に寄与することが考えられます。

ただ、解決すべき課題もあります。その学習システムの根本である「ノウハウ」は、その熟練農家さんのものであり、その権利は本来その農家さんの知的財産です。もちろん、その農家さんもその技術や知識は、親世代から受け継いだものであったり、研修先などで学んだものでしょう。その権利をどう保証するかも考えなければなりません。

一方で、日本全国の農家さんが自分のノウハウを開放してくだければ、まさに「農業のビッグデータ」として、気候変動への対策、品質の全体的向上に役立つ可能性があります。しかし、その提供を農家にどう説明していくか、そのデータを利用した農家に何か不具合があった場合、提供した農家の責任が問われるのではないかなどの問題があります。これに対しては先の神成先生の活動により「農業ICT知的財産活用ガイドライン」が作成されました。

農家の権利の保護とデータの収集・活用が進んでいくためには、ガイドラインをもとにした、具体的な法律面との整合性確認や、法整備が必要となっていきます。データの利用はどこまでにするのか。例えば、香川県で開発したイチゴの品種に関しての栽培方法のノウハウは、香川県内の農家にのみ限るなどの、具体的な部分への落とし込みが必要になってきます。

しかし、こういった課題の解決が進めば、ノウハウ自体を海外に輸出してシステム開発費用を賄うなどの、先に述べた「費用問題」も解決の道筋が見えてきます。多くの熟練農家ノウハウの集積と、その人の知的財産を保護したうえでの具体的な活用方法、管理方法がまとまっていくことを期待して止みません。

※データー出典元:
農林水産省「匠の技が学べる取り組み」について
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kihyo03/gityo/jyukuren_mieruka/top.html

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。
CATEGORY :知恵袋

ライター情報

  • Noumusubi
  • 片桐新之介

    フードビジネスコンサルタント。京都文教短期大学と吉備国際大学でフードツーリズム、フードビジネス論の講義もしています。得意分野はお酒と魚。百貨店食品部での経験を活かし、様々な面で農家や水産業者を支援。6次産業化プランナー、兵庫県マーケティングアドバイザー。まちづくりのコンサルも行っています。