お客さまと直接つながる農業へ。流通とBigDataのIT活用ーアグリビジネス論Vol.4

お客さまと直接つながる農業へ。流通とBigDataのIT活用ーアグリビジネス論Vol.4
このエントリーをはてなブックマークに追加
2020.02.20

農業界においても様々な場面でIT技術が活用されています。どんな技術がどんな場面で役立っているのでしょうか?農業界におけるITの活用と課題について「生産」「流通」に分けてお伝えしたいと思います。今回は「流通編」です。

目次

農業「流通」における課題

前回でも述べましたが日本の農業においては、様々な課題が挙げられています。今回は特に、生産現場から市場、小売店などを通じて、または直接消費者まで届く「流通」において考えてみましょう。

1つめは、食卓の変化という問題(※1)です。日本では、家庭で食卓を囲む回数やその人数が減ってきています。家庭内でも子どもの習い事や、共働きなどによる孤食の増加(※2)もあります。そのため、野菜を丸のままたくさん買う家庭が少なくなっています。加えて、家庭で使う野菜も大きく変わっています。これについては第1回のお話でもしたように、西洋野菜を使う家庭やレストランが増加したことによるものです。農業者はこういった家庭でのニーズの変化に応じて、従来の野菜とは違う新しい品種などを考えていく必要があります。

出典元:農林水産省
(※1)家族との食事の回数変化(若い世代ほど減っている)
(※2)孤食の増加

そして2つめは、流通の仕組みそのものの変化です。基本的に野菜は、産地から流通業者→都市の中央卸売市場など→小売店→家庭へ届きます。一方で、近年では大手小売店や小さな八百屋でも独自で産地から買い集めたり、消費者がネットで農業者から直接野菜を買う「通信販売」や「産直市」も増えています。

出典元:図は農林水産省「消費と流通の変化」図2 市場外取引の主な流れ(青果物・水産物)より

筆者は、農業者と消費者のつながりが直接増える傾向にあることは良いことだと考えていますが、もちろんその分農業者がするべきことも増えていきます。

農業者は新規の営業・販路開拓や、取引を継続させるため、

①消費者とのコミュニケーションをとること
②売り上げを管理すること
③配送手続きをすること
④商品の品質について自ら管理し情報を発信すること
⑤広報活動の効果を測ること など、

多岐に渡ってするべきことが発生します。広くは、「販売・流通」に関することと、「カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)」も農業者が行う時代になってきていると言えるでしょう。

今回、それらを総じて「流通における課題」として取り上げ、コミュニケーションツールを含むIT技術を活用することで解決へ取り組むためのお話をしていきたいと思います。

IT技術の活用と、広まるための課題

さて、流通の課題で大きいものの一つは「物流」です。生産物の集荷出荷、その数量管理には多くの作業を伴い、どこかで停滞が起きると、全体の業務に影響が及びます。しかし、その連絡手段の多くがFAXや電話であったりします。連絡手段が旧式で、かつ複数あると齟齬が生じやすく、伝達ミスや人的ミスなど発生することもしばしばです。例えば、集荷量が予定を大幅に増えると、トラックの手配などに影響が出ます。ドライバー不足の昨今では、なおさらこの影響は大きいのです。
逆に、集荷量が少ないと、本来注文を受けている予定出荷量が確保できないことが、直前で発覚するリスクも出てきます。そこで、農業者の出荷予想をデータ集約し、効率の良い集荷が行えるようにする仕組みなどが活用され始めています。

(参考事例:NECの集出荷コントロールシステム)

こういった仕組みにより、出荷調整・管理がしやすくなります。それだけでなく、出荷の実績ベースが一元管理され、作業員の効率の良い配置による労働時間の削減、廃棄ロスの低下も期待されます。大規模な農業施設を持っている農場や、集荷を行う事業者に今後さらなる活用が期待されています。

次にあげるのは「営業」に関する支援ツールです。小・中規模農業者がスーパーマーケットのバイヤーと商談をする際に必要なのが、農業者の生産物の特長や納品のための条件(最低発注量、納品までの日数など)や、流通のための規格(商品一つ当たりの重さ、ひと箱に入る個数、段ボールのサイズ)などを記入したシートです。そういった情報を電子化して、バイヤーと商談をしやすくする仕組みも開発されています。商品に変更があった場合でも、シートの内容変更が容易で、常に最新の情報が取引先に共有できるようになります。

さらに、農業者の営業と集荷出荷を支援するサービスは、ECプラットフォームを運営する企業や、スーパーマーケットの青果売り場とのつながりを支援する企業の登場により、次々と提供されています。これらのサービスのいくつかはまだ地域限定ではあるものの、いずれ何らかの形で日本全国へ展開していくのではないかと筆者は考えています。

次に挙げるのは、みなさんも日ごろから使う「情報発信ツール」の活用についてです。LINEやFacebookの活用もIT技術の活用と言えます。消費者と農業者の直接のつながりについて、古くは直接の電話注文、ダイレクトメール(はがき)などで行われていました。そして、最初のつながり作りが肝心です。何らかのつながりができ、そこからリピーターになってもらうための仕組みとして、電話やダイレクトメールで連絡を取るのが一般的です。

しかし、大半の農作物の収穫は「年1回」です。お客さまに連絡をして作物の購入をお願いしても、また買ってくれるとは限りません。先述のように、食卓は日に日に変化しています。野菜を丸のまま買うことも少なくなるだけでなく、流行の野菜がどんどん現れ、同じ野菜を買い続けるかどうかも分からなくなっています。もし料理をしても、出荷のタイミングまでに、別の生産者の同じような農作物を買ったり、スーパーで買い物をすましてしまうなど、一度買ってくれたお客さまと継続的につながりを作るのは、昔の手段では大変なのです。

現在では、Rakuten Ragri(ラグリ)をはじめ、LINE、LINE@(LINEのビジネス向け広告宣伝サービス)、FacebookやYouTubeなどITサービスを活用した手段で、多くの農業者が消費者へ直接情報を発信しています。種まき、草刈り、収穫などの様子を動画や写真で発信することで、お客さまを惹きつけ、継続してつながりを作るだけではなく、その情報が拡散することによって、新しいお客さまの獲得につながる可能性が出てきます。

ビジネスにおいては、新しいお客さまを獲得することと、継続することが何よりも大切です。農作業の様子や何気ない日常の様子を頻繁に情報発信することで、消費者からみて農業者との距離感が縮まっていくように感じるようです。親密さが高まると、注文をしてくれるのみならず、天候によって配送時季がずれてしまったり、不作で価格が前年より高くなってしまっても購入をしてくれる可能性が高まるかもしれません。マーケティングの専門用語では「リレーションシップマーケティング」という言葉がありますが、一般的には、お客さまと長いお付き合いをすることによって、販売する側にも長期的な利益が生じるようにすることを言います。農業という分野の場合、農業者にとって難しい課題である「天候による作業タイミングの変化」「収穫量の変動による価格の不安定さ」を解消する働きがあるようです。

また、こうしたお客さまとのつながりの構築には、より高いレベルのIT技術の活用も見られます。前述のように、お客さまとの直接のつながり作りも大切です。しかし、当然のことながらそのお客さまへは「収穫してなるべく早くお届け」しなければいけません。農産物の収穫時期は、想像以上に気を遣い、人手や時間も必要です。お客さまへ向けたタイムリーな案内や、出荷日の調整、発送作業、届かなかった時の再発送手続きなどをしなければなりません。ただでさえ忙しい時期に、手間が多くかかることは望ましくありません。せっかく、消費者と直接つながり高い利益が見込める生産物があるのに、こういった手間が増えることを避けたいと、直販に乗り出さない農業者の方もいらっしゃいます。

その課題を解消させる手段として、顧客管理業務の一元化があります。お客さまへのメール案内だけではなく注文も受け、配送伝票の印刷や、お金の処理まで一括で管理してくれるシステムです。農業者から特によろこばれている機能の一つに、お金の処理があります。クレジットカードだけでなく直接振り込みでお客さまからお金をいただく場合に、入金されたかどうかの管理や手間が大きく軽減されます。

参考事例:ヤマト宅急便の「産直くん」

「お客さまと直接つながること」の手間を解消してくれるITの活用方法について紹介しました。このように、営業、取引の継続、お金のやり取りなど、お客さまから遠く離れていても、農作業の合間により効率よく行えるサービスは次々と誕生しています。

これからの農業生産におけるIT活用

さて、とはいえこういった「流通」にかかわるIT技術も、これから解決するべき課題はいくつかあります。

1つめは、「生産性編」でも述べたような費用の問題です。農家がすべての農産物を、個人の消費者へ販売するということはあまり現実的ではないでしょう。スーパーマーケットや道の駅、その他JAなどへの流通もあった上で、並行して消費者への直接販売もやっていくケースが多いと思います。

ではどのくらいの消費者の売り上げがあるとITシステムへの投資に見合うのか、という問題もでます。農作物によっては単価も低めで、消費者と直接販売することを増やしても利益が上がりにくいこともあるでしょう。多くの農業者がこういった「営業」支援ツールを活用して普及するには、もう少し時間がかかるのではないかと思います。

2つめは、こういったツールを使うことで得られた各種データの「オープン利用」です。いわゆる「ビッグデータ」の話です。農業者がどのようにツールを使い、お客さまへの取引を行ったか、またそれでどのくらいの量が流通したのか。

農業者にとっては、作物の相場や消費者の嗜好が読み取れる情報は大切です。また、システム開発会社にとっても、需給バランスや天候の変化を予測して、農業者、流通事業者、消費者とともに良い結果となるよう、システムから提案ができるかどうかが今後の農業界にとってのキーポイントとなってくるでしょう。

最後に、生産者とのつながりが直接できるということは、その農産物に関わるすべての責任を持つ必要があります。使った肥料や与えた量、必要だった農薬の量や種類、最後に撒いた日などの情報は、安全性だけでなく品質にも関係します。以前であれば、地域のJAや流通業者が担ってきましたが、情報発信においては、農薬投与に関することなども含めてお客さまに提供して、品質についての判断もしてもらえるようにしていくことが必要です。また、YouTubeなどの情報発信によって、適正に農薬を使っていることや、作物の糖度を測っていることを消費者に見せる動画を投稿するなど、生産品の信頼感と品質の高さをお知らせすることで、消費者からの信頼を高く得ていくことができるでしょう。

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。
CATEGORY :知恵袋

ライター情報

  • Noumusubi
  • 片桐新之介

    フードビジネスコンサルタント。京都文教短期大学と吉備国際大学でフードツーリズム、フードビジネス論の講義もしています。得意分野はお酒と魚。百貨店食品部での経験を活かし、様々な面で農家や水産業者を支援。6次産業化プランナー、兵庫県マーケティングアドバイザー。まちづくりのコンサルも行っています。