エシカル消費とは?SDGsとの関係とエシカル消費の大切さーアグリビジネス論Vol.11

エシカル消費とは?SDGsとの関係とエシカル消費の大切さーアグリビジネス論Vol.11
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公開日:2022.09.07

今回は「エシカル(倫理的)消費」の考え方について解説し、こういう消費運動が盛んになる根底の考え方が欧米でどうやって発達していったのか、それが日本でどう発達していくだろうかということをお話いたします。

目次

「エシカル(倫理的)消費」とは何か

エシカル(倫理的)消費とは何か

これまでの記事で、日本における有機農業への取組みや、食の世界における環境問題へのアプローチの方法などについて書かせていただきました。今回はいよいよ「エシカル消費」について解説いたします。

さて「エシカル消費」とは何か?まず言葉の解説から始めましょう。
消費者庁のサイトには下記のように記されています。

”エシカル(倫理的・道徳的)消費とは、地域の活性化や雇用などを含む、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のことです。
私たち一人一人が、社会的な課題に気付き、日々のお買物を通して、その課題の解決のために、自分は何ができるのかを考えてみること、これが、エシカル消費の第一歩です。
2015年9月に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)の17のゴールのうち、特にゴール12に関連する取組です。”

また、平成28年に消費者庁から発表された『海外における倫理的消費の動向等に関する調査報告書』によると、下記のようになります。やや長いですが引用させていただきます。

「倫理的消費」の定義について尋ねたところ、使用される文言に多少の違いはみられたものの、「消費者が自らの倫理観に基づいて商品・サービスを選択すること」という回答であった。訪問した機関では、「倫理的消費」に類似する用語として、他に「持続可能な消費」、「政治的消費」という言葉が使われていた。「持続可能な消費」は国連環境計画(UNEP)が推進する用語であり、「倫理的消費」よりも広範な位置付けにある。その場合「倫理的消費」は、労働者や生産者への配慮という社会的要素が強く、「持続可能な消費」はさらに環境配慮の視点が含まれたものと捉えられている。”(文中太字は筆者加筆)

持続可能な消費

ここで重要なのは、先ずは「持続可能な消費」としての環境配慮の視点があり、その上で労働者や生産者への配慮として「自らの倫理観に基づいて」消費活動を行うという流れです。

つまり環境への配慮は、本来エシカル消費よりも広い・大きい概念のものです。簡単にいうと、エシカル消費(包括的)→その目的の実行手段としての有機農業の拡大など、という順序になります(有機農業の上位概念に近いと考えても差し支えはないと思います)。カーボンフットプリント、地産地消、フェアトレードなども、このエシカル消費という「倫理」をもとに、生まれてきた言葉とも言えます。

SDGsの普及において、すでに海外では2016年のスウェーデンの「ウェディングケーキモデル」の作成に見られるように、「自分ならSDGsをこう理解する」という意識的な活動にまで進んでいます。エシカル消費は、そういった「環境の問題、地球の問題を『自分事として』捉えて」「自分はどう行動するか」を一人一人が考えるということを大切にしています。エシカル消費とSDGsは、そういった「主体的行動」を軸に交わっています。

しかし日本では、この順序というより、『エシカル消費とは、自分、そして他の人や社会、地球環境、自然にとってもよいものを積極的に選ぼう!』というような意味合いだけで語られることが多い気がします。上記の報告書を発表した消費者庁HPでもそのような記述が見受けられました。

筆者としては、【地球や環境の問題を自分事としてとらえた上で】自分自身の判断で行動するべき、という理念があまり伝わらないまま、環境にいい消費をしていこうという表層的なところが進んでしまっている」ということに日本におけるエシカル消費の普及がまだ進んでいないことに繋がっている気がしています。

日本における「エシカル消費の認知」はなぜ低いのか

日本における「エシカル消費」はなぜ認知が低いのか

上の図は、株式会社電通が2020年に行ったエシカル消費に関する消費者への調査結果です。
「エシカル消費」という言葉を知っていますか?という問いに対し、男女ともにやや若い世代の方が認知度が高くなっています。

「エシカル消費」をやりたくない理由

「エシカル消費」をやりたくない理由については、「内容がよくわからない」という回答が高いのが目立ちます。先ほど述べたように、「理念が十分に理解されていない」ということを表す結果だと考えています。

1戸当たりの農地面積の国際比較

フェアトレード認証製品 市場規模(フェアトレード・ラベル・ジャパン調べ)」の資料をみると、日本におけるフェアトレードやエシカル消費の市場自体は成長を続けていて、2020年は前年比13%増の131億円となっています。しかし、世界の市場規模に比べると非常に小さく、その伸び率も近年あまり芳しくないように感じます。

ここ数年で日本では食と環境に関する言葉がいくつも消費者の耳に届くようになりました。
SDGs(持続可能な開発目標)
カーボンフットプリント(商品などに生産過程すべてのCO2量を表示すること)
バーチャルウォーター(商品などの生産過程すべての水使用量の推定数)
フードロス(もったいない、という言葉ははるか昔から日本には定着していますが)
フード・マイレージ(食料の輸送距離)

などなど、多くの言葉を報道で耳にしたり、パッケージデザインで目にしたりすることになりました。有機農業という言葉自体は1970年代にはもう日本にはありましたが、オーガニックという言葉などとともに消費者に意識されるようになったのはここ10数年というところかと思います。日本での有機農業の推進に関する法律の制定は2006年です。

もちろん、これから広がっていく可能性は大いにあるとはいえ、電通社の調査にあるように『色々言葉がありすぎて何がどういう意味なのか分からない』という声が上がる方が自然流れかもしれません。義務教育において持続可能な社会に対する理解が進むでしょうが、今現在の大人たちがどう理解していくかも重要な課題です。

日本においてよりエシカル消費が理解されて広がっていくには、そもそものエシカル消費の意味である『倫理的な消費行動』への啓蒙が必要だと感じます。一方で、カカオのフェアトレードを意識した商品(明治のTHE Chocolateなど)や、2011年の後に行われた震災復興支援の応援消費など、具体的な活動ももっと注目されてよいと思います。

もちろん、これから広がっていく可能性は大いにあるとはいえ、電通社の調査にあるように『色々言葉がありすぎて何がどういう意味なのか分からない』という声が上がる方が自然流れかもしれません。義務教育において持続可能な社会に対する理解が進むでしょうが、今現在の大人たちがどう理解していくかも重要な課題です。

世界におけるエシカル消費と問題点

世界におけるエシカル消費と問題点

イギリスでは、1970年代において、社会問題や国際問題に対する「ボイコット」の形で倫理的消費の動き広がってきたという原型があります。

冒頭にあげた消費者庁の『海外における倫理的消費の動向等に関する調査報告書』から引用すると、
”①南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離)政策に反対して南ア製品や南アと取り引きする英国企業のボイコット、②オゾン層を破壊するフロンを使った製品(冷蔵庫等)のボイコット、 ③動物実験を行う化粧品会社のボイコットの三つだった。市民/消費者がボイコットを起こした 背景には、新自由主義政策を採る政府が、それらは政府が関わるべき問題ではないという姿勢を取ったことがあるという。 
その後イギリスでは、非倫理的な企業を懲罰するボイコットよりも、フェアトレードのように倫理的な企業の製品を積極的に選択して買う「バイコット(buycott:ボイコットの反意語として造られた造語)」が一般化していき、そうした消費者の変化を前に、企業側も1990年代から倫理的 な製品やサービスの提供に力を入れるようになっていった。”
ということが書かれています。

つまり、消費者が多くの政治課題に関して、投票という形でなく「ボイコット」という形で意思を示すということを市民発の運動として起きたということです。

経営規模を拡大・縮小した理由

日本では環境問題、特に1960年代以降の公害問題に対して多くの社会運動があり、当然ボイコットや不買運動も動きはありましたが、どちらかというと当時の企業と「政府」の責任を問う活動が大きく、特に国の関与を認めるか否かの裁判で多くの時間が費やされ、報道もされたことを考えると少し違いを感じます。有機農業についても、1970年代に成田空港建設反対に関連した社会活動家が中心となって取組が進んだという根っこがあり、日本の場合政治的な問題として取り上げがちです。(参考:新潮新書 野口憲一「やりがい搾取の農業論」)

つまり、日本と欧米、少なくともその源流の一つであるイギリスでは、消費活動を「自分事」として選択するか否か、また「生活の安定を保証するのは政府の仕事」ととらえるかなど、国と国民の関係性や政治と生活の在り方などが違うことに、エシカル消費の浸透や理解が根差しているような気がしてなりません。

しかし、かといってイギリスがエシカル消費先進国で、その活動については確固たるものとなっているわけではありません。今までも、『エシカル消費であることを示す認定機関がいくつもあり、どれを信じたらいいかわからない』『環境にいいとされるオーガニックも、不況期にはその消費が減る(価格が高いため)』『サプライチェーン側には、個々の問題や情報がサプライチェーンの各場所にとどまり、 広く共有できていないという課題がある』などの問題が発生し、それをいかに対応するかでまだまだ道半ばといった様子です。

特に、認定機関については国が主体的に調整することはせず、これはアメリカも同様ですが、市場の淘汰に任せているようにみえます。日本ではJAS認証がオーガニックでは一応確立しており、認証における手順が複雑で費用が高いなどの問題はあるものの、乱立というところには至っていないでしょう。

ただ、それでもオーガニック商品の消費が一般的になっていることは特筆すべきことだと思います。

アメリカ・ダラスにおけるスーパーマーケットのオーガニック食品販売風景 筆者友人が撮影

写真はアメリカの高級スーパーマーケットです。オーガニック商品がデフォルト状態であらかじめ売られており、そうでないものを探す方が難しいということです。

欧米では、環境問題への高い意識があり、農業でも循環型や自然への環境負荷を意識する消費意欲が大きいというのはもはや当たり前で、その上で、倫理的消費(人権、労働環境に関する問題)の意識を消費活動に置く人が増えている、ということが日本との大きな違いかもしれません。

日本では1960年代などの公害問題は、現在では大きく改善していますし、生活を守るのは政府の役割で、自らの消費者としての行動意識をどうしていくべきかという議論が消費者自身そのものから生まれにくい環境があるのではないでしょうか。もちろん、多くの活動が起こりつつありますが、先に述べたように政治的活動に根差すものなどもいくつかあり、一人一人が自ら考えて行動するというところとは少し違うように感じます。

一方、こういった消費活動に水を差すものとして、「エシカルウォッシュ(エシカルに取り組んでいるように見えて実態が伴っていないこと)」の問題もあります。

冒頭にあげた消費者庁の報告書からまた引用すると
”こうして、「倫理」が消費者にアピールし「売れる」ようになるにつれ、「倫理」を標榜しながら実際には倫理的でない行動を取る「自称倫理的」企業が現れ、消費者の不信や批判が高まるようになった。いわゆる「エシカルウォッシュ」問題の出現である(汚れが高まるようになった。いわゆる「エシカルウォッシュ」問題の出現である(汚れた壁に白い漆喰を塗って汚れを覆い隠す「ホワイトウォッシュ」から派生した造語)。”

 消費者がこういった活動を「見抜けるか」が問題かと思いますが、現実的にはなかなか難しいのではないでしょうか。そこで大切なのはメディアの役割になってくると思われます。

これからのエシカル消費の課題・メディアの役割

これからのエシカル消費の課題・メディアの役割

2013年、衣料製造・ファッションの世界を揺るがす大きな事件がバングラディッシュで起きました。
ラナ・プラザ崩落事故(ダッカ近郊ビル崩落事故)と呼ばれる事故が起こったのは、2013年4月24日、バングラデシュの首都ダッカから北西約20kmにあるシャバール(サバール)で、8階建ての商業ビル「ラナ・プラザ」が崩落した事故を指します。死者1,127人、行方不明者約500人、負傷者2,500人以上が出たこの事故は、ファッション史上最悪の事故とも呼ばれています。

なぜ「ファッション史上最悪」な事故なのかといいますと、このビルには世界的アパレルブランドの縫製工場が入っており、この事故で犠牲になった人の多くは、その工場で働いていた若い女性たちであったからです。

事故の原因は、ずさんな安全管理でした。しかし、この大きな事故に対して、衣料品のメーカーは「知らなかった」というコメントを繰り返しました。グローバル展開しているファッションブランドらが、バングラディッシュで当地の労働者を低賃金かつ劣悪な環境で働かせていたのです。これを機にサプライチェーンの透明化が大きく叫ばれました。

イギリスやデンマークなどの「エシカル消費」が高まった背景には、市民活動も大きく寄与していますが、同時にメディアやソーシャルメディアの活動も大きく寄与したという研究が、冒頭の報告書でも掲載されています。食の世界におけるエシカル消費の拡大には、「持続可能な消費」を含む、これからの食生活の在り方を一人一人が考えていくための、正しいメディアの報道が期待されます。有機食品は健康にいいとか、食生活をダイエットとすぐ結びつけるような報道ばかりではならない、メディア側で記事を作成している身としては正しい報道に努めたいと日々思っております。

Z世代と呼ばれている人の多くは、エシカル消費への理解も進んでいる

そして、日本人一人一人が自らの消費行動を見直し、環境問題や社会問題を「自分事」ととらえ、正しい情報をもとにした自分なりの「倫理観」を高めることが大切だと思います。いまZ世代と呼ばれている人の多くは、エシカル消費への理解も進んでいることは、明るいニュースだと感じています。

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。

ライター情報

  • Noumusubi
  • 片桐新之介

    フードビジネスコンサルタント。京都文教短期大学と吉備国際大学でフードツーリズム、フードビジネス論の講義もしています。得意分野はお酒と魚。百貨店食品部での経験を活かし、様々な面で農家や水産業者を支援。6次産業化プランナー、兵庫県マーケティングアドバイザー。まちづくりのコンサルも行っています。

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