高校生が作った野菜をお届け!バイオビジネスコース:よしこ先生の農業高校だよりVol.5

高校生が作った野菜をお届け!バイオビジネスコース:よしこ先生の農業高校だよりVol.5
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最終更新日:2021.07.26 公開日:2020.04.07

高校生が作ったトウモロコシが人気です!農業高校の現役教師がお届けするリアルな話。新型コロナの影響で生徒たちは登校できませんが、今回は群馬県立藤岡北高校の生物生産科バイオビジネスコースを紹介します。

目次

採れたて野菜のおいしさは人生の幸せの味!

入学した生徒たちは、全員が「農業と環境」という授業の中で、田植えやトウモロコシの栽培などといった簡単な農作業を体験します。

初めての授業はトウモロコシの種まきです。その後、除草や除房などの栽培管理をしながら7月に収穫期を迎えます。自分の手で収穫して味わうよろこびは、消費者の裏側にある生産者の苦労や想いを知るきっかけにもなっています。

皮をむくと現れるプリプリとした黄色い実に歓声をあげ、自転車のカゴいっぱいにトウモロコシを詰め込んで帰る。そんな姿を見ると、今年の新入生も一人前の農業高校生になったなと思います。

6月に行う田植えでは、生徒は靴と靴下を脱いで素足になり、キャーキャー叫びながらぬかるんだ田んぼの中に足を踏み入れ、泥まみれになりながら一本一本手でイネを植え付けていきます。中には転んでお尻までビチョビチョになる子がいたりして、生徒にとって高校時代の忘れられない思い出の一つとなります。

このような農作物の栽培方法を専門的に学習するのが、今回ご紹介するバイオビジネスコースです。

生物生産科バイオビジネスコース

バイオビジネスコースでは、私たち人間が生きていく上で基盤となる食べ物、農作物の栽培方法について専門的に学びます。農業を営むために必要な知識や技術を学習し、自分たちが作った農作物を地域で販売しています。

実習地としては、畑や田んぼなどが約3.3hあります。また専門の施設として、ビニールハウスの単棟と連棟、ガラス温室2連棟、スリークォーター型(不等辺屋根)のガラス温室が2棟、水耕栽培用のコンピューター制御温室があり、年間を通して様々な野菜を栽培することができます。

大型のトラクターやイネ狩りをするコンバイン、小型の耕運機、草を刈る刈払機(かりはらいき)、収穫物を運ぶ運搬車、消毒を行うための自動噴霧機といった専門の農業機械もたくさんあり、それらを使って田畑を管理しています。

1年生では、種まきや収穫、畑の片付けなどといった農業全般を体験します。 2年生になると、農作物の生理生態についての基本的な知識の学習が始まります。種や発芽の仕組みといった植物の生態を学んだ上で実習を行うと、今やっている作業が農作物の栽培過程のどこの部分に当たるのかが、徐々にわかるようになっていきます。気温や降水量、日照時間が切り離せない農業において、全体の栽培過程を意識しながら作業を行うことは、農業の栽培計画を立てる上で必要な能力です。

また、植物バイオテクノロジーの授業では、個体や液体の培地を作って試験管やシャーレに入れ、植物の器官培養や茎頂培養を無菌室の中で行います。そして基本的な無菌操作の知識と技術を身に付け、植物の分化や植物ホルモンの作用などを学び、実験や実習をとおして植物バイオテクノロジーを応用する実践力を育てます。

3年生になると、野菜の種類ごとに細かく栽培方法を学習していきます。農業の動向や経営を学び、農業協同組合や農業法人の仕組みなどといった現代の日本の農業について知識を深めます。さらに今後の農業を見据えて、先端技術となるICTやロボット技術を利用したスマート農業や、GAP(適切な農場管理の基準)や、HACCP(危害要因分析に基づく必須管理点)についても知識を深め、これからの農業を担っていく人材として必要となる知識を習得していきます。

昨年度の研究活動では、サツマイモ、ジャガイモ、いちご、メロンを栽培し、品種による栽培方法や収量調査を行うなど、学校外へ出て販売活動をしながら、野菜栽培の面白さや藤岡市の魅力を発信してきました。

藤岡北高校の野菜で特に人気なのはトウモロコシとトマトです。これらが収穫時期を迎える頃になると、地域のあちこちの方から販売に来てほしいと熱烈にアピールをされます。
私個人の感想ですが、トウモロコシは生のまま食べてもびっくりするくらいジューシーで甘味が強く、初めて食べたときは感動ものでした。トマトは味に奥行きと独特の濃さがあり、一度食べたら他のトマトでは満足できなくなるほど美味でございます。

この野菜たちは、しっかりと耕された土壌にたっぷりの堆肥、たくさんの生徒の愛情が入っているおかげで、甘くておいしい自慢の野菜に仕上がるのだと思います。

〈バイオビジネスコースの目標〉
食料の生産方法に加え、その過程で農作物が成長するよろこびや、収穫の達成感を体得させるとともに、流通や販売、環境に関する諸活動を主体的に取り組む能力と態度を育てる。

〈バイオビジネスコースで学べる専門科目〉
農業と環境、課題研究、総合実習、農業情報処理、作物、野菜、草花、農業経営、植物バイオテクノロジー、生物活用

春のアグリフェア:野菜苗2万6千本!

藤岡北高校では年に3回、野菜苗や草花苗の販売がメインとなる「アグリフェア」という販売イベントを行っています。4月に行う春のアグリフェアでは、バイオビジネスコースの生徒が作った野菜苗が主役です。ナス、ピーマン、カボチャ、トマト、キュウリなどといった一般的な野菜苗を28種類、約2万6千本用意して販売しています。

4月にちょうどよい大きさの苗にするために、まずは2月から種まきをします。野菜の種の多くは指先でつまめないほど小さく、ピンセットを使って、セルトレイ(小さなくさび形の穴が複数あいている育苗用のトレイ)の中に一粒ずつ蒔いていきます。とても根気のいる地道な作業です。その後、温度管理をして育て、苗の根が網目状に広がった頃、少し大きなポリポットの中に鉢上げをし、畑に植えるのにちょうどよい大きさになるまで、ハウスの中で大切に育てられます。

強くて良い苗を育てるために、苗が病気にかからないよう薬剤を適正に使う方法、茎が太く真っ直ぐ伸びた苗に育てるために、水や肥料をどのタイミングで与えればいいのかなども学びます。また、たくさんの苗を栽培管理することで、良い苗を見極める目も養われてきます。

アグリフェア当日は、農家さんや家庭菜園を楽しむ方たちが多く訪れ、ハウスの中に入りきれないほど長蛇の列を作り、校内は大混雑となります。生徒たちは全員で接客にあたり、野菜苗の品種や特性など、お客様の質問に答えられるようにして、会計まで行います。

自分たちで一から作った野菜の苗を自分たちの手で販売し、あっという間に売れていく様子を目の当たりにすることは、確実に生徒の達成感につながっています。さらに地域の大人たちと交流する中でコミュニケーション能力が育まれ、自分たちの活動が人のために役立っているという貢献感まで味わうことができています。
バイオビジネスコースの生徒は、高校で得た農業に関する知識や生産者としての視点を武器に、これからの日本の農業を支える若き人材です。大いに期待していきましょう。

現役生徒と先生の話

〈現役生徒 Jさん〉

――バイオビジネスコースに入ったきっかけは?

もちろん農業をやりたかったからです!私の家はいちごがメインの専業農家で、ビニールハウスがいくつもあります。学校よりも田んぼや畑が大きくて、お米やブロッコリー、枝豆などを作って農協に卸しています。藤岡北高校には、農業の全体的なことを勉強したくて入りました。

――入ってみてどうですか?

小さい頃からよく家の手伝いをしていたので、学校の実習は余裕です(笑)。ただ、家に比べると手作業が多いので、そういう意味では大変かもしれません。基本的な部分は同じですが、家と学校ではやり方が少し違ったりして勉強になります。

――今後、研究したいことはありますか?

3年生になったらいちごの研究をする予定です。家では冬から春にかけて群馬県の育成品種「やよいひめ」と「とちおとめ」を大体半分ずつ作っています。学校ではそれ以外の品種も色々作って、肥料の与え方や収量の調査、味や栄養成分の研究をしたいと考えています。卒業後は施設栽培や土壌の勉強ができる学校へ進学し、将来は家の農業に活かすのが目標です!

〈実習担当 高山先生 戸澤先生〉

――バイオビジネスコースのここがスゴイ!

毎年4月に実施するアグリフェアでは、28種類2万6千本もの野菜苗を育て、地域の方々に販売しています。こんな量を作っている農業学校はなかなかないと思います。今年は新型コロナの影響で生徒がいませんが、いつ生徒が来ても、今まで通りの実習ができるよう毎日丁寧に栽培管理しています。

トマトは夏と冬で800本くらい植えて育てています。根強い固定ファンがついていて、授業中に近所の方がトマトハウスを見にきたりします。生徒は自分たちで作った野菜を食べた時に、本当にうれしそうな顔をするのですよ。(戸澤)

――交流活動は?

近隣の幼稚園、保育園などから、年間を通して1,000人を超える園児が訪れ、ジャガイモやサツマイモの収穫体験を行っています。生徒が中心となって指導していくので、人との接し方や子どもの扱いが目に見えて上手になっていきます。また子どもたちに農業の魅力を知ってもらおうと、紙芝居でわかりやすく、生育過程やイモの堀り方を紹介したり工夫しています。

3年生も後半になると農作物の成長がわかるようになって、自分で進んで動けるようになります。そして農業に大切な、真面目で、地道にコツコツ、必要なことをきちんとやれる人に成長していきます。

お弁当にいかが?ベビーリーフの育て方

ベビーリーフはうまくいけば種まきから収穫まで1カ月程度で育ちます。家の中なら完全無農薬で栽培できますし、サラダやお弁当に活躍しますのでオススメです。

<材料>
プランター
培養土
ベビーリーフ(10品目)の種

<作り方>
① プランターに土を敷き詰める
② 1cmくらいの深さの溝を筋状に掘り、まんべんなく種をまく
③ 3~4日に一度たっぷりと水をあげる
④ 大きくなったら、根を抜くのではなく、下から1cmくらい残して上部を収穫する

材料は全て100円均一のお店で購入することができると思います。上手に育てることができれば3~4回は収穫することができます。お手軽な家庭菜園として、ぜひやってみてください。

編集後記

新型コロナの影響で、生徒は3月2日よりほぼ登校できておりません。4月に実施される予定のアグリフェアについても現時点では未定となっております。こんな状況下ですが、バイオビジネスコースが育てている2万6千本もの野菜苗たちはこれまで通り、すくすくとハウスの中で順調に育ち、旅立つ日に備えております。この手塩にかけて育てた可愛い野菜苗たちが無事にみなさんのお手元に届き、地域の畑の豊かな実りとなりますよう、藤岡北高校職員一同、祈るような気持ちで、今は地道にコツコツ力を合わせて農作業に励んでおります!

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。
CATEGORY :知恵袋

ライター情報

  • Noumusubi
  • 田中よしこ

    群馬県の高校教師。東京農業大学卒。OLなどを経て、現在は藤岡北高校勤務。生徒の「やりたい!」気持ちを引き出して、自ら挑戦する力を育てることを大事にしております。趣味はDIYと家庭菜園。ジュニア野菜ソムリエ、パンシェルジュ検定3級、大型特殊(農耕車)などの資格を持っています。

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