濃い味わいのみかんを伝えたい!離島・大崎上島の農家を集めて産直を担う原動力は広島への恩返し
広島県の離島・大崎上島(おおさきかみじま)で、複数の農家から産地直送をはじめた瀬戸内大崎上島農園の藤中拓弥(ふじなかたくや)さん。「広島に恩返ししたい」とは?農業を通じたその大きな思い取材しました。
転職4度目で農家に!広島に貢献したい
――農家になった経緯は?
大学を中退して、最初はアパレル販売員として店長をやりました。そして広島から福岡に転勤し、そこで移動販売のパン屋さん(写真左)に転職したんです。
――メロンパンとか流行りましたよね?
そうです!メロンパンとか売っていました。フランチャイズ化して、加盟したオーナーのサポートをして、当初はみんなに利益を生んで貢献できる!と本気で思っていたんです。でも結局は、経営が苦しくて、パンの車や備品を持ち逃げする人が出てくるような構造だとわかって...貢献どころか真逆の方向に行ってしまったことが、ショックでしたね。
それでビジネスを見つめなおそう!と思い、地域おこし協力隊(写真右)になりました。
――地域おこし協力隊!どちらで?
福岡県八女市です。山の中で仙人が住んでいるような地域なのですが、そこで廃校を活用した取り組みをしました。
パン販売のときから漠然と「農業したいな」という気持ちがどこかにあって、地域おこし協力隊をやりながらそれが膨らんでいきました。
――なぜ農業?
いつか広島に帰って恩返ししたいというのがずっとあって、何ができるかを考えると、広島は農業が弱いことに気づきました。調べると農業に対する政策もバックアップもない...
今でこそ広島と言えばレモンですが、当時は牡蠣ともみじまんじゅうだけでした(笑)それに広島は山林が多く、自然豊かなのだから、貢献するなら農業だと思ったんです。
――「貢献」や「恩返し」って凄いキーワードですね
もはや自分にかけた呪いですよ。呪いのように貢献の精神を唱えています(笑)利他の精神であり続けることこそ経営の本質だと心に刻んでいます。
――どうやって農家に?
偶然が重なって、友人と大崎上島にふらっと遊びにきたのですが、たまたま出会った人が観光案内所の方で、農家を紹介するよ!と、3軒も連れていってくれたんです。
そして中原農園の2代目の中原幸太(なかはらこうた)さん(写真左)に出会って、この人と一緒に働きたいと思いました。
海の方々って、ウェルカムだけど空気感が軽くて、深く入り込まない感じ。きっと宿場町で、海賊文化があるからなんでしょうけど、山の集落を重んじる資質とはまるで違って、それが心地よかったです。
あと、よそへ行くと「農業はそんな甘いもんじゃない」って言われてしまうのだろうけど、大崎上島では「やってみて失敗したら次へ行きな~」って感じなんですよ。
――いいですね!それで農家になる決意を?
はい、半年くらい準備をして、地域おこし協力隊を終えてから大崎上島に引っ越してきました。
農業知識は家庭菜園レベルからの急成長
――農家になってみてどうでしたか?
まずは驚きの連続。柑橘のなる果樹は常緑樹で、一年中葉っぱが緑なんだと知って、そんな木があるんだと思いました。
――なんと!そんなレベルから?
全ての花が実になり、その種から芽が出て苗ができると思ってました。本当にゼロから自分で学びました。
――なかなかですね。それで農作業はどうでしたか?
思ったよりも楽しくて疲れがありませんでした。
「え?これで終わりですか?」って感じです。
イメージでは、毎日朝早くから働いて、夜寝るのも遅くて、疲労困憊で何もできない生活だったのですが、全然まだ余裕なんですけど?休憩多くない?もっと働きたい!と、だいぶ余白を感じました。
そうこうしているうちに、妹も移住してきて、一緒に中原農園で働くことになったんです。
――妹の夏実さん(写真左)からみてお兄さんの働きぶりは?
あんまり褒めたりしたくないけど、凄い人です。だから常緑樹も知らなかったなんて、びっくりでした。
人に厳しくて、自分にも厳しくて、もちろん私にも相当厳しいのですが、いつも早起きをして畑にいる働き者で、作業も早く丁寧なので、やることやっている人に私は何も言えないなって思っています。
兄は昔から、やると決めたことは徹底して実現するタイプです。
――お兄さんは、妹さんと働いてみてどうでした?
あの1年間はずっとケンカでした。自分の求める水準が高すぎるんです。家族じゃなかったら、もっとうまく教えられるのでしょうけど。
それで、妹に独立を勧めました。
妹を農家でブランディング!販売戦略の猛勉強
妹に農家で独立を勧めたのは、自分が描いたビジョンがあったからです。
若い女の子が、有機JASを取得して、女手ひとつでオーガニック農業をしている。しかも離島で!そんなブランディングができると思いました。
――なるほど!それで妹さんの畑も手伝ったり?
いや、それはしません。女手ひとつに意味があるから、あくまで自分でやって欲しいし、嘘はつけません。
畑仕事に関しては、自分で解決してやりなさい、マーケティングなど裏の仕組みや戦略はこっちでやるから任せなさいという感じです。
だから、自分でEC(イーコマース:ネット販売)の勉強を始めました。
――ECの勉強とは?
1からデザインができるよう、イラストレーターのソフトを学び、コーディングもできるようHTMLやCSSも勉強しました。基本的には本をみたり、YouTubeをみたりの独学です。
だからといってWeb制作者をやりたいわけでなく、マーケティングという要素を分解したときに、上辺だけすくっても本質的なものにならないと思って、いずれ誰かにお願いするときに、裏の仕組みを自分でわかっていたほうがよいという考えでした。
そして、いくつものECサイトに出品したんです。いろいろ苦労はありますよ。
――苦労されたのですね?
オーガニックの柑橘なので、理解のないお客様だと、見た目の面で厳しい感想がきたり、なかにはクレームになったりします。対応をするのがしんどくて、正直やるんじゃなかったと思うサービスはありましたよ。
そのうえで、システムを使いこなしたり、ユーザーさんへのコメントを書いたり、梱包発送したり…ECは労力がかかるので、使えている人は1割くらいに思えます。
大崎上島の農家さんを支援!恩返しを開始
大崎上島は、離島で海に囲まれているので、海に面した畑が多く、太陽からの光と海面からの反射光で日射量が増え、気候的に日照量も多い。さらに急傾斜地が多いため、水はけがよいところです。
太陽をたくさん浴び、余分な水分がいかず糖度があがることで、味の濃い高品質の柑橘が育ちます。
この産地ならではの余分な水分を含まない、濃い味わいのみかんを伝えたい!いいものを作っていることを伝えたい!
今は産直がブームだけど、農家から直接発送できるのは約1割。他の9割の方は、やりたいけどできない状況です。そこに労力をとられて、本来農業する時間が減ってしまえば、品質が下がり、消費者との溝ができてしまいます。
自分は農業がしたい。
でも今は、仕組みを改革したい。
あたたかく受け入れてくれた大崎上島に貢献して、広島へ恩返しをしたい。
大崎上島の人口は約7,300人で、農家は約1,000人いる。そのうち専業農家は約300人。
自分だけは限界があるので、みんなで一緒にやりませんか?と声をかけていきました。
だけど結果は出れば出るほど、嫉妬されます。
まずは妹の夏実の育てる有機レモンをネット販売しながら、農家さんに話を聞いて回りました。
若手農家の方には、技術を磨くためにもっと農業に時間を使って、ものづくりに集中してね。他は自分が力になるからと伝えています。
ご年配の方々は、ちゃんと話をするとご納得いただけて、ご協力くださる方が多いです。今の販売方法だけでは生活や畑も満足に維持できないと、不安に思っていらっしゃる方も多く、新たな販路の開拓をしてくれる人がいるのはありがたい、といろんなことを教えてくれるようになりました。
――夏実さんからみて、お兄さんはどうですか?
新しい農業の携わり方をつくってくれたと思います。
まわりの農家さんから、お兄ちゃんに助けられたよ!お兄ちゃんは凄いことしたらいいよ!と言われたりします。
――お兄さん、凄いことって具体的には?
まずはネット販売のために記事を作って、ストーリーを意識して、インスタにアップしました。
2019年の初動で、農むすびに夏実の取材記事を書いてもらって、こう伝えればいいのかというのがわかったので、それを参考にして販売をしていったんです。ありがとうございます。
柑橘農家の3名を紹介!今年の出来栄えは?
今年は瀬戸内大島上島農園として、20人ほどの農家さんの作物をまとめて産地直送していきます。その中から3名をご紹介します。
◆越智さん
寡黙ですが思いやりに溢れ、サービス精神旺盛な方です。島にお越しになるお取引様には最初にご案内する農家さんで、島の南部の急傾斜地で、お一人で柑橘全般の栽培をされています。
<生産品目>
みかん、レモン、八朔、ネーブル、ぽんかん、はるみ、ゴールデン文旦、甘夏、伊予柑
<農法のこだわり>
急傾斜をお1人で管理されているので、とにかく段取りと効率が重要です。園地全体の木の生育に応じた施肥や防除といった管理も重要になります。畑を観察し、無駄のない管理を行うことで、広大な園地で品質の良い柑橘を生産することが可能となります。これは越智さんのご経験があって成せる技だと言えます。
<今年の出来栄え>
極早生から非常にお客様の評判が良く販売も好調です。早生みかんも小ぶりながら味がものすごく濃い仕上がりで今から出荷を楽しみにしています。
◆田中さん
大崎上島ではかなりお若い生産者さんでご両親と共に大きなみかん畑、不知火(しらぬい:デコポン)畑を中心に管理されていらっしゃいます。勉強熱心でたくさんの知識と論理的思考をもち、作業効率や省力化にも力を入れ、より品質の良いものを追求されていらっしゃいます。
<栽培品目>
みかん、レモン、不知火、プリンス清見、はるみ
<栽培のこだわり>
広大な園地の管理を行う上で、作業の効率はとても重要になります。たくさん農薬を散布すればその分品質の良い果実が作れる可能性がありますが、必要のないところにまで農薬が過剰に使われます。田中さんは病気や虫などの発生要因を素早く発見し手早く散布することで、必要以上に農薬を使わず品質の良い果実を生産されています。多くの知識と畑に足繁く通う田中さんだからこそできる管理と言えます。
<今年の出来栄え>
今年は裏年※ですが、それでも秋に全く雨が降らなかったこともあり果実の内容は良く、外観の品質も上々です。取り分け田中さんの代表のみかんと不知火は是非お召し上がり頂きたい出来栄えになっています。
※温州みかんには、収穫の多い表年(おもてどし)と、収穫の少ない裏年(うらどし)があり、1年ごと交互に繰り返します。
――お届けするみかんは?
今年は、台風で終わったと思ったけど、運がよかったです。夏までの条件がよくて、寒波もなく、春風もそんなに吹かず、梅雨は短かったけど夏にいいかんじ雨が降り、乾きすぎることもなかった。見た目も高品質のものがあります。
お客様が大切な誰かに贈りたくなる果実を目指していますので、ぜひ一度ご賞味ください。そして、大崎上島にも訪れてもらえると嬉しいです。
- この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
- 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
- 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。