約150年の歴史「はざまいちじく」とは?香川の伝統果実を引き継ぐチームがこれからの農業を先駆ける

約150年の歴史「はざまいちじく」とは?香川の伝統果実を引き継ぐチームがこれからの農業を先駆ける
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最終更新日:2023.10.27 公開日:2022.07.20

香川県まんのう町羽間地区で作り続けられてきた伝統の果物「はざまいちじく」。生産者の高齢化が進む中、立ち上がった若者たちがいます。BettimFarm(ベッティムファーム)の強みを生かした農業に大注目です。

目次

約150年続く伝統果実「はざまいちじく」

約150年続く伝統果実「はざまいちじく」

▲右から高橋さん、篠原さん、太田さん、坂口さん。今回は、篠原さんを中心に太田さん、高橋さんに取材にご協力いただきました。

――「はざまいちじく」とはどんないちじくなのですか?
篠原:はざまいちじくは、香川県まんのう町羽間地区で作られているいちじくを指します。羽間地区には明治初期に伝わったと言われ、約150年前から今日まで栽培が続けられてきました。

その間品種改良が行われることもなく、当時伝わったものをそのまま羽間地区の人たちが代々受け継ぎ、守ってきたんです。だから、今生きている人たちがどこか違う場所で真似しても、同じ味のいちじくを再現することができない伝統的な果物なんですよ。
外部の介入が一切なく、今日までその味や作り方が伝わってきていることが僕はすごく面白いなと思っています。

僕たちBettim Farmは平均年齢25歳のチームではざまいちじくを作っています!

はざまいちじくの味の特長

――はざまいちじくの味の特長を教えてください
篠原:Bettim Farmのはざまいちじくは「糖度20度にも到達する甘酸っぱさ」が特長です。一般的ないちじくが糖度約15度なのに対し、去年は最高21度を計測したものもあります※。また、ただ甘いいちじくが多い中、はざまいちじくは高糖度であるのに加えてほのかに酸味もあります。

また、皮がとても柔らかいので皮ごと食べることができます。はざまいちじくは蓬莱柿(ほうらいし)という品種のいちじくなのですが、この品種は皮が薄いんです。合わせて、農薬不使用で栽培しているので安心して皮ごと召し上がっていただけます。

8月中旬頃から収穫が始まり、収穫期後半の10月中旬になると気温が下がるので、やや皮は硬くなってしまいますが、お好みで皮ごと召し上がっていただければと思います。

※サンプル計測値のため、全ての個体での糖度の保証はいたしかねます。

野球選手から転身!農業のプロを目指して

野球選手から転身!農業のプロを目指して

――「はざまいちじく」農家になった経緯を教えてください。
篠原:僕は小学校1年生から社会人までの約20年間野球に打ち込んできました。本気でプロ野球選手を目指していたのですが、自分の中で限界を感じ、野球も会社も辞めたんです。

辞めてから特にしたいこともなかったのですが、あるとき親戚が集まる機会があり、皆さん農業の話をされているのを耳にしました。今まで野球一筋で親戚の方との交流がなかった僕は、その時初めて彼らが農業をしていて「はざまいちじく」農家であることを知りました。

子供のころから当たり前のように口にしていたいちじくは全て「はざまいちじく」といういちじくだったんです。どんないちじくなのか尋ねると「他のいちじくと比べてずっと美味しいぞ」「県内で一番高く売れているよ」「日本で一番うまいんちゃうか?」と笑いながら話してくれました。
僕は「はざまいいちじく」という名前も知らなかったし、農業にも全く興味がなかったのですが、その瞬間にすごく興味を持ったんです。

その後、まだ本気ではないものの「農業やるんです」と言うと、「ええやん」と興味を持ってくれる人が多くて…。農業ってそんなに必要とされている仕事なんだなと徐々に感じるようになりました。

そんな時、高知県の生姜農家さんを紹介していただき会いに行ったんです。その方は、朝はサーフィン、昼は農業、夜はバーベキューというようなかなり自由なライフスタイルで生活されていました。農業用の倉庫の中にサーフボードが並べてあったり、ハーレーが二台あったりと、イメージと全く異なるかっこよさに衝撃を受けましたね。

当時周りで農業をしている同年代の人は他にはおらず、周りと被ることが嫌いな僕は「農業しかない!」と野球で一からプロを目指したように、農業で一からプロを目指すことにしたんです。

個性的なメンバーで新チーム結成中

僕はいちじく作りを白川訓弘(しらかわくにひろ)さんから教わりました。白川さんは昭和51年から約40年間、はざまいちじくを第一線で作り続けている方です。当時80歳だったこともあり「10年後には、はざまいちじくはもうないんちゃうか?」とお話されていました。僕が「はざまいちじくを作りたい」と言うと皆すごく喜んでくれたのを覚えています。

農業は自分がプロになれる方法だと思いますし、何より「はざまいちじくを広めたい」という想いで農業に取り組んでいます。

太田:僕は2022年の6月に入社したばかりです。その前は税務や財務関係のお金や数字を扱う仕事をしていました。学生時代はヨットのスポーツ推薦で大学に進学するくらい、僕もスポーツに打ち込んできたんです。

伝統あるヨット部でスポーツに取り組む中、ふとこのままレールに沿ってサラリーマンになるのが何か違うと思いました。そして部活を辞め、税理士試験に向けて勉強を始めたんです。並行して大阪の税理士法人でのインターンシップで実務経験も積みました。そのまま正式に入社し約2年間働いた後、起業しました。その時初めて篠原に会ったんです。

個性的なメンバーで新チーム結成中

個性的なメンバーで新チーム結成中

――どのようにお二人は出会ったのですか?
太田:商工会議所の例会に篠原も出席していて、そこで「おはようございます!!」と気持ちの良い挨拶をしてもらったのが最初です。僕は篠原の顔をどこかで見たことがあるなと思っていたんですよね。というのも実は同じ高校の学年が一つ上の先輩だったんです。「高校の野球部のキャプテンだった人やん!」って。

篠原:年上の方しかいないと思っていたので(笑)。あんな挨拶は最初で最後やな。

太田:それから、お互い自分の会社のことを相談する仲になりました。「Bettim来いよ!」と当時から何回か誘われていたのですが、農業に全然興味がなかったので断っていましたね。僕の仕事は室内の涼しい場所でパソコン一台あればできる仕事なので無理だ!と(笑)。

 ――そこから入社を決めたのはなぜ?
太田:当時の仕事でトラブルがあり篠原に相談していたんです。相談しているうちに「一緒にやる!?」と話すようになって…。その時改めて「農業」について考え直してみたんです。
僕の持つ「農業」のイメージは「田舎のおじいちゃん、おばあちゃんがするもの」で、ビジネス的な観点で見てなかったんですよね。
税理士の仕事や会計ソフトの仕事をしてきた経験の中で、あらゆる企業の数字を見てきました。どのような業種で、どのような人たちが、どのようにビジネスにして、お金が回っているのかということを見てきた。でも「農業」をしている人の数字って見たことないなと思ったんです。

後、僕の祖父母はいちご農家だったんですよ。そんなことを思い出したら、意外と「農業」って縁があるなと気づいたんです。自分にとってめちゃめちゃ遠いものでもなかった。
それらから、僕の今まで積み重ねてきた経験と農業を融合させたら結構面白いんじゃないかなと思いました。
具体的には、生産過程やその中でかかるコストなどを分解して分析し、効率よく栽培できるようになったり、味のクオリティをもっと上げられるようになったりできるんじゃないかなと思うんです。そこまで突き詰めて取り組む農家さんはいないだろうし、自分たちの大きな強みとして戦っていけるんじゃないかなと思い、農業の世界に飛び込みました。

 ――お二人はタイプが全然違うようで、ある意味相性が良いように感じます
篠原:確かにタイプは全然違いますね。これは2人でもずっと話していて。お互い異なる視点、強みを持っているので、協力したら良いものが作れるんじゃないかと思います。

――皆さんおそろいのロゴTシャツを着ていますね?
篠原:はい、社員だけでなくパートさんにも着ていただいているユニフォームです。僕は野球をしていたので、ユニフォームを着たら鎧をまとうイメージで気合が入るんですよね。一体感もあるし、これを着て外に出ていたら、Bettim Farmの一員として見られているという意識が生まれると思います。僕らを見かけて気になった方がロゴから社名を検索してくれることもあると思いますし宣伝にもなります(笑)。

 ――他にはどんなメンバーが?
篠原:色々なメンバーがいます。皆、ただ単に朝から晩まで働く作業員ではなく、皆それぞれの立場、役割があります。2022年の上半期は僕を含めた2人だけで必死に野菜を作ってきました。下半期は体制を整えて、個性豊かなメンバーを集めています。

農業を始めてみて、農業は決して甘いものではないと分かりました。でも、だからこそこれからの農業を考えれば、色々な要素があっても面白いと思いますし、皆が活躍しないと意味がないと思うんです。

はざまいちじくの伝統を守っていくことを第一に、農業人としてこれからのことを考えたい。個性的でバランスがとれた強いチームを目指しています。

はざまいちじくの「濃厚な甘酸っぱさ」の秘密

はざまいちじくの美味しさの秘密

――はざまいちじくの美味しさの秘密を教えてください。
篠原:羽間という土地性が美味しさに大きく影響していると思います。温暖な瀬戸内の気候と水はけの良い土壌に恵まれ、いちじく栽培に最適な土地なんですよ。

また、水が不足していると実が熟してくれないので、BettimFarmでは、夏場は3日に1回くらいのペースで田んぼに水を張るイメージで園地に水を入れています。張った水が2時間ほどでなくなるほど、とにかく水はけが良い。これがすごくいちじく作りに適しているんです。

蓬莱柿(ほうらいし)という品種のいちじくは、熟すとおしりの部分がぱかっと割れるのですが、地面に水がたまり続けてしまうと、熟していなくても割れてしまうことがあるんです。美味しく熟すようにするためには水が必要なのですが、水がたまってしまうと未熟なまま割れてしまう。短時間で水が下に流れるくらい水はけのよい羽間の土地だからこそ、水を大量に入れることができます。これは他の産地ではなかなかできないことだと思います。

美味しいいちじくの見分け方

――美味しいいちじくの見分け方を教えてください。
篠原:いちじくの割れているお尻部分から中が見えるので、赤く色づいているか確認します。

でも、いちじくは100個あったら100個とも見た目が異なるくらい個性豊かな果物なので見た目での判断が難しいときもあります。
触ってみての柔らかさも目安なのですが、ジャムのようにとろとろで柔らかいいちじくが好きな方もいれば、硬めで酸味のあるいちじくが好きな方もいるのでこれはお好みですね。

 ――おすすめの食べ方はありますか?
篠原:冷やして召し上がっていただくのが一番です。焼いたり煮たりする方もいらっしゃいますが、僕はそのまま生で食べるのが一番美味しいと思います。
おしゃれに食べるなら生ハムとクリームチーズに合わせるのはいかがでしょうか?

失敗とギャップだらけのスタート

失敗とギャップだらけのスタート

――農業をしていてつらかったことは?
篠原:雨が続いてしまったことで、いちじくがほとんど出荷できなくなった時がつらかったですね。
いちじくの割れているところに雨粒が入ってしまうと、その部分から白っぽくなり糖度が一気に落ちてしまうんです。

去年、その時期に収穫予定だったいちじくに関しては全部捨てることになりました。収穫作業というよりは回収作業でしたね。ハウス栽培のいちじくで雨が防げたとしても、日照不足により実が熟れていない状態で割れてしまいます。気候に左右されるところが難しいなと思います。

 ――他にいちじく作りで難しいと思うことはありますか?
高橋:剪定や芽かき作業ですね。剪定は枝を切って木の形を整えることで、芽かきは不要な芽を取り除くことです。たくさん収穫しようと思ったら、枝や芽を残しておけば良いのですが、日光が当たらなくなり、品質は落ちてしまいます。収穫量と品質のバランスを考えながら作業を行っています。

篠原:今年に関しては、剪定、芽かき、追肥作業は全て僕一人で行いました。今年の収穫量が少なかったら僕の責任になります(笑)。

高橋:去年は枝を結構残してみたんです。すると実が柔らかくなってしまうものが多くなってしまい、収穫作業が大変でした。剪定の大切さが分かりましたね。

篠原:農産物を作ることは簡単だと思っていたのですが、うまく作ることができなかったギャップもありました。一年目は「販売」の面を第一優先で考えてしまっており、いざやってみたら生産面でうまくいかず、当初の計画より半分以下の売上だったんです。その間、テレビや新聞など各方面のメディアの取材も受け、注目していただいたのですが、外側の強みばかり強くなりすぎたなという想いが正直あります。

2年目である今年は、売ることより肝心の中身である生産部分を第一に考えようという考え方にやっと変わりました。

はざまいちじく

――生産面で失敗したと?
篠原:そうですね、例えば本で調べて有機栽培で作ろうと思っても、いざやってみたらできなかった。見た目がそろっていないと規格が定まっている農協などには卸せないですしね。消費者が求める美味しくて健康なものを作ろうと思い描いていましたが、自分たちが継続的な経営をするなら、農薬、化学肥料って最低限は必要なんやなぁと。見た目が綺麗なものが売れ残ることって絶対ないんですよ。有機栽培で作った見た目が規格に合っていないものは全てロスになる。売ろうと思って計画したものが全て生産できるわけではない、生産したものを全て売ることができるわけではない。これら生産と販売の部分が大きなギャップでした。

太田:僕も生産ロスがかなり多いことに驚きましたね。同じように種を植えたらそのまま野菜ができて、それが売れるという感覚だったので、虫食いや形が変なものが出荷できず、その数がかなり多いということに驚きました。
あと、そういった規格外のものが生まれる原因を考えた時に、農業は常に条件が変わるので答えを出すのが難しいんですよね。前職の数字を扱う仕事では必ず答えがあったので、この「答えが出ない」ということが僕にとってかなり気持ち悪いです(笑)。

もっと先の未来の話ですが、日本の農産物のサプライチェーンを変えることもできたら良いなと思います。そういった日本の食事情を変えるだけでなく、世界の食糧難の危機に対しても、農業はとてもやりがいや社会的意義がある職業だと思います。そのような面ではプラスのギャップもありました。

何にでもなれる!若手農家とはざまいちじくの未来

何にでもなれる!若手農家とはざまいちじくの未来

――農業をしていて嬉しかったことは?
篠原:「今まで食べた中で一番美味しい」といった感想をいただくことですね。インターネットを通じてのメッセージはもちろん、手紙をいただくこともあります。

こんなにお客様からメッセージをいただくという体験は野菜ではなかなか味わえず、「はざまいちじく」だからこそなんだろうなと思います。とても嬉しいです。

――皆さんの農業の面白いと思うところを教えてください。
高橋:農業は「ゴールが見えない」ところに面白さがあると思います。年間で育てるいちじくだったら一年に一回しか挑戦できないですよね。例えば、僕が60歳くらいまで農業を続けるとしても、人生であと40回ほどしか挑戦することができません。

少ない挑戦回数の中で、毎年気温や天気も異なってくるのでマニュアル化ができません。その中で、いかに良いものを作れるか、多くの人に届けられるかということを自分のモチベーションにしています。

太田:農業はまだまだ未開拓な部分が多く、そういった意味で「挑戦すれば実現できる、勝てることがある」ところが面白いと思います。
あとは、他の仕事よりもリスクが大きく、それらをどう予測してどのように対応していくかを考えていかなければならないところも農業の面白さだと思います。

基本的に計画を立て、それに沿って売上をあげるということがビジネスなのに対し、農業は自然との闘いで計画通りに進まない不可抗力がある。例えば、青果が想像よりできなかったときに加工品でカバーするなどのリスクヘッジを考えるのが僕には面白いですね。

何にでもなれる!若手農家とはざまいちじくの未来

篠原:二人が言った通りですね。本当にこうだと決まったことがなく、これからのはざまいちじくも当てはまりますが、「何にでもなれる」ところが面白いですね。

僕らのように若いからこそ考えられることだってあるし、技術面では他の農家さんに勝てなくても、他の面で勝てることだってあります。僕は農業ならナンバーワンを目指せると思っているんです。中々そんなものってないんですよね。ITだったりスポーツだったり、海外に通用するかといったら難しいところもあると思います。でも、農業だったら日本が世界に勝てる。そんな広がる可能性を農業に感じています。

――今後の展望は?
篠原:日本一のいちじくを目指して、伝統のはざまいちじくを引き継いでいく中で、かっこいい農業をしていきたいです。そして農業を皆が憧れる職業にしたい。でも今のままではただきついという事実が先行してしまうと思います。だからこそ、高橋のような栽培技術に特化した人間や、太田のような事業を数字で見ることができる人間、楽しく雰囲気を良くできる人間など、色々なタイプの人が必要なんです。もちろん女性もできることが必ずあります。幅広い視点で農業を考えていきたいです。

こういうことができるのは僕ら若い世代しかいないと思いますし、僕らにしかわからないことが絶対あるんですよね。どんどん形にしていって、未来の次の世代の子どもたちが「Bettim Farmみたいになりたい」と思って農業を始めてくれたら、それが「世代をリードする」という意味になると思っています。

◎Bettim Farmの「はざまいちじく」は楽天ファーム楽天市場でご購入いただけます!

編集後記

20年間の野球人生の終焉、はざまいちじくとの出会い、師匠との出会い、仲間との出会い、失敗とこれからについて。メンバーの数だけ物語があり、「いろんな要素があったほうが面白い!」とお話される通り、皆さんとっても魅力的でした(もっとうかがいたい!)。 ドラマティックに動き出している若者たちの人生と、約150年続く伝統のはざまいちじくとのコントラストに大注目です。

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。
CATEGORY :農家さん

ライター情報

  • Noumusubi
  • 額見奈央

    楽天農業株式会社の2020年新入社員。石川県生まれ、奈良で学生時代を過ごして、愛媛にやってきました。「人にも環境にも優しく、人のつながりが生まれ続いていく」そんな地域に根差した農業を目指しています♪女子大出身・農業未経験女子だって農業ができることを発信していきます。

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