りんご農家の若者が自家製シードル&サイダーを!直談判で新しい世界を創る長野のチャレンジャー
長野県の最南端・下條村でりんご、桃、梨、柿、そばを栽培するカネシゲ農園の古田康尋(ふるたやすひろ)さん(写真右)。まだ珍しい100%ストレート果汁のりんご炭酸ジュースやシードル醸造に成功した秘訣を聞きました。
先代が感じたりんご生産だけの限界
こんにちは。カネシゲ農園の古田康尋です。この写真は右から、父:道寛(みちひろ)、僕、弟:健詞(けんし)、母:恵子(けいこ)の家族写真です。
カネシゲ農園は、長野県下條村に先先代:重人(しげと)が果樹園を開き、先代の父がアメリカ・オレゴン州での果樹栽培実習を経て、1974年に創業しました。
父は5年前に亡くなり、三代目として僕が継ぎました。踊れないほうの三代目です(笑)
今は桃の収穫をしています!農業は楽しいですよ!自由度が高いというか、農作物を使って6次産業化などあれこれ可能性が広がることをここ2~3年で特に実感しています。
――ずっと農業一筋なんですか?
うーん、農業高校を卒業後、県の果樹試験場で二年学んで就農したのですが、父とそりが合わず一度家をでました。それで焼き肉屋やゲームセンターでバイトをしていましたが、父の病気を期に実家へ戻って、今に至ります。
父は50年ほど前、果樹の可能性を信じて、アメリカ・オレゴン州へ1年間りんご農家の修行の旅に出ました。広大な土地に果てしなく続くりんご畑、合理的な栽培技術、楽しく気さくに働くスタイルや環境、そのすべてに感動し刺激を得たそうです。
また、今でこそ農園独自のりんごジュースをたくさん見かけますが、父は20年前から始めていました。多少の傷により青果としての価値を失ってしまう果実でも、加工することで新しい価値を生み出し、食品ロスを減らしていくことをずっと前からやっていたんです。
――SDGs持続可能な農業の先駆け的存在ですね?
そうですね。カネシゲ農園は100年先まで続く農業のために、持続可能な農業と新しい価値を再考するという意で『RE:AGRI(リ:アグリ)』をコンセプトにしています。
農家がジュースだけでなく醸造や炭酸もはじめたわけ
りんごのお酒は僕が5年前から作りはじめました。きっかけは、りんごジュースが長野や青森では生産者の数だけあって、供給過多に感じたことでした。
そこで考えたのがこの「炭酸りんごジュース」です。100%ストレート果汁に炭酸が入っているドリンクはとても珍しくて、やっとみつけた会社へ行って教えて欲しいと直談判したら、バッサリ断られました。
――それでも諦めなかったんですか?
逆に火が付きましたね。隠すってことは相当いいはず!と粘って、他の企業とご縁ができました。その中でたまたま巡り合ったのが、りんごのお酒「シードル」です。
当時のシードル業界は、ワイナリーが年間の稼働率をあげるために、りんごを仕入れて醸造している状況でした。
そこで「シードル専門の会社がないからやろう!」と同級生に相談したら、「おもしろそう!」と言ってくれて、弟も役所を辞めて一緒にやることになりました。
こちらが同級生の櫻井隼人(さくらいはやと)。シードルをやると決めてからすぐに設備投資をして、オープン1年目から一応ものはできました。
―― 一応というのは、おいしくなかったと?
いや当時はよくできたと思ったけれど、今飲んでいるほうが圧倒的においしいです。醸造の技術、知識は年々あがっていますが、まだまだ伸びしろがあります。シードルは奥が深すぎる!!
「ボブ」という名のドリンク
――シードル名の「BOB(ボブ)」ってどういう意味ですか?
ボブは僕です(笑)友達にボブって呼ばれてます。
――え!なんでボブ?
ボブ・サップに似てるからです(笑)シードルの名前は同級生の発案で、覚えてもらいやすいようにつけました。
――なるほど!BOB(ボブ)はどんな味?
BOB(ボブ)は、洋ナシが入っていて、りんごにはない雑味があってボディが強く、ほんのり甘くて、食事に合う…まるで僕みたいな味です(笑)
――ではJURIEN(ジュリアン)は?
JURIEN(ジュリアン)は、レシピを教えてくれたのがジュリアンさんで、オークチップを使っていて、バニラの香りとレーズンのふくよかさがあるのが特徴です。
――JOHN(ジョン)も人物?
いやJOHN(ジョン)は、桃が入っているので、あの女性の下着メーカーのピーチ・ジョンから…半分いただきました。
――おもしろい!デザインもかっこいいですよね?
ありがとうございます。ラベルのデザインは僕と同級生で考えています。彼がもともとアパレル出身で、センスがいいんです。最初はデザイナーの方に相談して、その後は彼がイラストレーターで作っています。
オーガニックエコフェスタで最優秀賞!美味しさの秘密
――りんご栽培のこだわりを教えてください。
もともと減農薬、有機肥料栽培は先代からやっていました。おいしいものを作ろうと、農業をとことん突き詰めていくとそこに辿り着くと思います。土作りからこだわり、病害虫を防止する農薬を必要最小限度にし、有機肥料を使用した農法は、安心・安全ですが手間暇がかかります。
その毎日の積み重ねが実を結び、2018年に徳島で行われた「オーガニックエコフェスタ2018」という農産物の栄養価、旨み成分を競うコンテストで、りんご部門の最優秀賞を受賞しました!
――すごい!一番おいしくて、栄養もあるということですね?
はい、そういう評価をいただきました。味には自信がありましたが、栄養価も高いと聞いて、とてもうれしかったです。
土台となる土は、南アルプスを望み天竜川が流れる南信州の雪解け水を地下に浸透させて、自分たちで作った堆肥を使い、糖度と酸度のバランスを絶妙なまま果実に閉じ込めた「樹上完熟りんご」にこだわって栽培しています。
父ちゃんの作るやつが一番うまい!
――農業をやっていて、一番うれしかったことは?
子どもに「父ちゃんの作るやつが一番うまい」と言われたときです。子どもは3人いて、8歳・6歳・3歳なんですが、みんなりんごも、桃も、梨も大好きで、りんごは丸かじりで食べますね。
りんごジュースも好きでよく飲んでいるんですが、温泉とかにいって、わざわざ自販機でりんごジュースを買うんです。
それで「やっぱり父ちゃんのほうがうまい!」と、毎回言ってます(笑)りんごジュースは先代から20年、進化させてきた自信作ですから、お世辞抜きにうまいですよ。
これからも子どもが生きていくこの地域の農業を元気にするため、若者を雇い、若者がやりたくなるような農業のスタイル確立に向けて、父ちゃんはチャレンジしていきます!
どうぞみなさん、味の濃い、甘くておいしい自慢のりんごジュースと、とても珍しい100%ストレート炭酸りんごジュースを、夏の暑い日にキンキンに冷やしてグビッとお飲みください。ボブの元気も共にお届けします!
編集後記
農家になって3代目ですが、その前は「炭焼き」が家業で、木を作って窯で炭にして売っていたそうです。「それって鬼滅の刃の竈門炭治郎と同じじゃないですか!」と言ったら、「確かに!子どもたちに教えてあげよう!」と言ってました。気づいてなかったんですね(笑)子どもに自慢の家業って、本当に素敵だなと思いました。(担当:Motty)
- この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
- 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
- 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。