棚田の花段でハーブ栽培!ときめきを届けるアーティストやアロマセラピスト達の農業への心躍る挑戦
山口県長門市で棚田保存活動を行っているのは、棚田の花段の和田あいこさん。あいこさんをはじ め4名に心躍るような“ときめき”を届けるハーブの魅力をたっぷり取材しました。
地元の棚田を守りたい。ハーブ栽培をはじめたきっかけ
ーー棚田の花段ではどんな活動をされていますか。
山口県長門市油谷地区では、本州最西北端の向津具半島を中心に約600haもの一大棚田地帯が広がっており、1999年には「日本棚田百選」にも選ばれています。
そんな棚田の景観保全と継承に向けて、ゆや棚田景観保存会では「ときめく棚田大作戦」という棚田再生プロジェクトを進行しています。棚田の花段は棚田再生プロジェクトの一環として2018年秋からハーブの栽培を始めました。そして育てたハーブを活用した商品開発やイベントの開催などを行っています。
他にも多事業化を目指して企画した棚田の花段の広場ではハンモックでゆっくり過ごせたり、日本海の絶景と棚田を一望できるので、ハーブと共に観光としても県外からのお問い合わせも増えてきています。
またハーブや山口の食材を使用して作るジェラートのお店『むかつく-探さないといけないジェラート店-』とタッグを組み、週末などは棚田の花段の広場でジェラートの販売もしていますよ。
ーーみなさんは山口県長門市出身なのですか?
あいこさん:
私は山口県長門市出身です。
棚田の花段の活動をするまでデザインコーディネーターとして仕事をしていました。生産者さん又は製造者さんの育てた農作物や加工品などのパッケージや販促、商品開発などをしていました。
奥田さん:
私も長門出身です。あいちゃんとは25年前からのお友達です。これまでも沢山の地域活動を共にしてきました。
ちあさん:
私は長門市の近くの下関市出身です。
20年以上海外でアロマセラピーの仕事をしていました。いろいろな縁が重なり2021年4月から棚田の花段でハーブの栽培、栽培したハーブを使用したアロマセラピーの仕事をさせていただいています。
伊藤さん:
福岡県の北九州市出身です。
大学は農学部で商品開発などに関係するような研究をしていまして、農業関係で起業したいなと思っていました。長門市の地域おこし協力隊を募集しており、棚田保存会は商品開発と棚田の活性化、棚田の保全、イベントの開催などやっていて、やりたいなと思っていることが詰まっていたので応募させてもらいました。2022年5月に長門市の地域おこし協力隊の棚田活性化事業担当に就任し活動に参加しています。
ーー棚田でハーブの栽培をはじめたきっかけを教えてください。
あいこさん:
地元である山口県長門市の魅力を生かし、地域活性化につなげたい思いがありました。
長門市は農業や水産業など第一次産業が盛んでしたが、現在は高齢化が進み人口が減少してきています。これから先のことを考えると観光産業など第二次産業に切り替わっていく時であると思っていました。
ちあさん:
あいこさんはデザインコーディネーターとして製造者の皆さんの育てた農作物や加工品などのパッケージや販促、商品開発をするお仕事をしている時、彼女自身がどのようにしたらものが売れていくかをすごく研究してきました。ときめく形で消費者に届くかを製造者の皆さんと考えてきたバックグラウンドがあるんです。
デザインコーディネーターの仕事では彼女自身は作り手ではなく、提案、サポートしていたようですが、仕事をしている中では抑えていた自分の表現もあったのだと思います。
あいこさん:
作り手として、ゼロからコツコツ作り上げるハーブ栽培への挑戦は、ものすごいアドレナリンが出て私自身がとても元気になっていきました。
そして挑戦する楽しさを表現していくことがいろいろな方に影響していくような気がします。
ちあさん:
あいこさんは農家というより「アーティスト」なんです。
農業は植物を育てること。ですから日々植物と向き合い、根をはらないとできないことです。そしてハーブの栽培に加えて、今までやってきたデザインなどの仕事を生かし、ワークショップやイベントの開催など表現を広げる場をつくり、地に足をつけた芸術作品ができていると思います。
香りが良く癒される棚田ハーブ
ーーどんなハーブを作っているのですか?
ほのかにレモンの香りのするリラックスハーブ「レモングラス」、魚の臭み取りや料理のアクセントに最適の「ローズマリー」、香りがよくポプリやお菓子作りにもぴったりの「ラベンダーオカムラサキ」などさまざまな品種のハーブを栽培しています。
ーー棚田の花段のハーブの魅力を教えてください。
あいこさん:
香りが良いのが魅力だと思います。圃場には海からの風や霧に混ざって海のミネラルが運ばれてきます。ミネラルを多く含む圃場で育つハーブは香り成分を強くしてくれるようです。
伊藤さん:
はい、ミネラルを多く含んだ赤土の栽培で、香り成分が強くなりやすいのではないかと思っています。
ちあさん:
土壌に合ったハーブを栽培しているのが魅力です。土地に合わず育たなかったハーブでも、別の棚田に移動してあげると育つこともあるんです。ハーブの品種によって土地に合う合わないがあったりしますね。
商品化する時も1つ1つ全部手作業で手間暇かけて行っています。棚田の花段ではドライハーブ、冷凍ハーブの販売をしています。
ドライハーブは収穫した後、水で洗浄し自然乾燥させます。そして1つ1つ選別作業を行い、乾燥機で乾燥させて丁寧に包装しています。
冷凍ハーブは―20℃の冷凍庫で少量ずつ急速冷凍しています。手軽にレモングラスの摘みたてのような爽やかさ、香り高い風味を感じていただけると思います。
あいこさん:
お客様には、生活の中で豊かな自然の香りを楽しんで頂き、強いては荒れた棚田が再生することにつながる、自然と人が並走して歩めるときめく未来に繋がることが棚田の花段のハーブの魅力だと思います。
ーー購入された方や直接訪れた方からどんな言葉がありますか?
あいこさん:
わぁ~って驚いてくださります。
ちあさん:
そうですよね。まず景色にわぁ~と驚いてくださります。
棚田の花段の景色をずっと維持できるのは並々ならぬ情熱を注いでいる人たちがいるからできることです。そして、実際に棚田で栽培されたハーブを摘み、香りでまたわぁ~と驚きがプラスされ、土地とか人のファンになってくれるお客様がいらっしゃいます。
あいこさん:
棚田の花段は心が躍るような“ときめき”って大事で、その“ときめき”を育てる農業を目指しています。
ちあさん:
ボランティアでハーブ栽培を参加してみたいっていう方もいらっしゃいます。他にも口コミで伝えてくれたりSNSで伝えてくれたり。お客様同士のネットワークでちょっとずつ広まっていくのを感じます。身近な人が伝えてつながっていくことはとてもありがたいです。
あいこさん:
棚田もハーブも元気に育ち、お客様の「ハーブで癒される」「凄く良かった」などの意見を聞いたとき、色々な人との交流と出会いがあり共に挑戦可能な農業ができる棚田があることがとても嬉しく思います。
大切にしている4つのお約束
あいこさん:
棚田の花段は全員が農業未経験者でスタートがゼロからでした。ですので、素人でも出来る農業のスタイルと人と自然が寄り添って歩めることを大切にしています。
棚田の花段がハーブを栽培する上で大切にしていることとして4つのお約束があります。
1つ目に農薬・化学肥料は使用しません。
口に入るものなので、なるべく安心して使えるものにしたいという思いでハーブの栽培を行っています。
2つ目は棚田を活用する事業を行います。
耕作放棄地であった棚田を活用することで、かわいいハーブたちをみなさんにお届けすることができます。
3つ目に『おもてなし』を大切にします。
いろんな方と出会えるような幸せの輪を届けたいと思っています。
作る人、売る人、買う人が三方よしで気持ちよく楽しめることが大切であると考えており、三方すべてにおもてなしができるスタイルをとりたいと思い日々活動しています。
4つ目に生産性だけでなく、周辺景観の維持保全も行います。
自然を守らなければ生産もできないですし、継続もできません。自分たちが栽培するハーブができればいいのではなく自然と共存することがとても大切です。心が躍るような “ときめき”を大切にしたら数字もついてくると思っています。
ーー棚田の花段の活動をする中で大変だったことはありますか?
あいこさん:
始めた頃は主な作業スタッフは片手で足りるほどの人数しかいない上に、農家経験者が1人もいませんでした。また、ハーブを入植する圃場は何十年も耕作放棄地になっていた棚田です。土は硬くて大きな石のような塊になっていたり、土が見えない程の草木の根っこに埋め尽くされていましたが、塊になった土を木や草刈り機で叩いては砕きました。
奥田さん:
開墾作業が大変だったよね。
機械を使用できる人もいなくて、ハーブが育つ環境を整えるために竹、茅の根をスコップで掘る作業などを夏は20時頃までしていました。
あいこさん:
そして作付けは、地域の方と連携して行いました。元々が田んぼだったため、湿気を嫌うハーブには適合し難い環境な上に、壊れて機能していない水路もあり、水はけが悪くて2600本入植したハーブで生き残ったのは600本でした。
それでも諦めずに、土や植物の様子を見ながら数々の工夫とテストを繰り返し、棚田の水の道、風の道、人の道そして自然環境を保存しながらハーブと共に棚田も育てていきました。
試してみて!ハーブのおすすめの楽しみ方
ハーブティーがおすすめですね。各種ドライハーブを混ぜてオリジナルブレンドとしてもお楽しみいただけます。
他にもルームスプレーや小袋の中にお好みのドライハーブを数種類入れたサシェとしてもお使いください。鞄の中や引き出し、靴の中にも香りを届けてくれます。
簡単・おしゃれなハーブボールを作るのもおすすめです。体のツボへの刺激と香りによるリラックス効果があると言われ、タイでは古来から利用されています。
ハーブボールの材料は各種ドライハーブ合計20gとお好みの布と紐だけ。作り方はまずハーブを布にくるんで軽く揉み、混ぜ合わせます。そしてくるんだ布を捻り上げお好みの糸で固定して持ち手を作ったら完成です。
完成したハーブボールを自身の腕や関節に押し付けマッサージしていきます。
ハーブボールは2か月以上使用可能です。最初はドライのまま使用しますが、香りが薄れてきた時は、水に漬けて電子レンジ500W 1分程度加熱すると、体を温めるマッサージとしても利用できます。最後はお風呂に入れてハーバルバスとしてご利用ください。
ドライハーブは目で見て楽しめる暮らしのアイテムでもあるので、ガラス瓶の中に入れ、ドライフラワーのようにキッチンやお部屋の中に飾るのもおすすめです。
冷凍ハーブはお湯で煮出すとハーブティー、ハーバルバス、室内加湿などさまざまな形でお使いいただけますよ。
沢山の好きや素敵を生産できる棚田を増やしていきたい
あいこさん:
今後もお客様、販売者、生産者の三方よしの“ときめき”を生産できる棚田を目指していきたいと思っています。
奥田さん:
ハーブ畑のほかに、今ワンちゃんと飼い主さんがときめく棚田をつくろうことで棚田にドッグランをつくる計画もあるんです。ハーブ栽培、ドッグランだけでなく長門にある棚田すべてを使うのが夢ですね。上から見渡した時に下までがすべて棚田だってわかるくらい活用された棚田の景色を見てみたいです。山口県長門市には約7万8千枚棚田がありますが、すべて使われる日が来るといいな。全然想像つかない景色になると思います。
また稲作や牛の放し飼いだけではなくて異業種のキャンプ場にしたり、棚田を活用する人がときめくさまざまな使い方があっていいと思っています。
ちあさん:
棚田を再生しながら、ハッピーな人が増えハッピーな動物が増えたらいいなと思います。自然も人の手が入ると崩されるという印象があると思いますが、棚田を再生していくことで人も自然と関わり合いを持つようになり自然側も人にもうちょっと近づいてきてくれるようになると思っています。
自然環境も人間含めあらゆる生き物たちもみんながお互いに自分たちのいいバランスを取りながら共存・共栄していけるようなポイントを探していきたいと思っています。
あいこさん:
それぞれ夢はいっぱいあります。いっぱいあるから挑戦したい人たちが集まって、沢山の好きや素敵を生産出来る棚田を増やしていきたいです。
以上、いかがでしたか?
お会いすると元気になるようなエネルギーに満ちた棚田の花段のみなさん。そんな素敵な方々が作った豊かな自然の香りが自慢のこだわりのハーブをハーブティーやハーブボールなどさまざまな方法でお楽しみください。
- この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
- 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
- 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。