旬を届ける彩り豊かなぶどうたち!岡山で作る心温まる優しいぶどうの秘密は「我が子への想い」から
ばんの農園の伴野喜義(ばんのきよし)さん、まりさんご夫妻は、岡山県吉備中央町で10種類以上のぶどうを作っています。子どもでも安心して食べられるぶどう作りを貫いてきたお二人の歩みと今後を伺いました。
岡山に移住し田舎暮らしスタート
――岡山県にお二人で移住して農家に?
喜義さん:
結婚してから2年経った頃に、妻の出身でもある岡山県に移住し、田舎暮らしを始めました。ぶどう農家になって9年になります。
僕は愛知県一宮市出身、妻は岡山県岡山市出身と、どちらかといえば街育ちで、結婚してから田舎暮らしがしたいと考えるようになったんです。
最初に二人で住んでいたのは僕の地元で、そこから徳島県、岐阜県と渡り、岡山県にたどり着きました。
――今までの移住先の決め手は「田舎」?
まりさん:
そうですね。もともと人が多いところは苦手だったので、旦那に「田舎暮らしをしよう」と言われたときもすぐ「OK!」と答えたくらい、抵抗感はありませんでした。
岡山は私の地元でもあるので、なおさら反対する気持ちはなかったです。
――移住してから農業を?
喜義さん:
岡山に移住したときには自分の年齢が40を過ぎていたこともあり、再就職は考えず、就農しました。
徳島時代、仕事を探していた時に紹介してもらったのが有機農業に取り組む農家で、そこでアルバイトをして有機農業を体験しました。そこの農家だけでなく徳島では地域全体で有機農業に力を入れおり、例えば、その地域では阿波尾鶏(あわおどり)の養鶏場から出る堆肥を使っていましたね。
そこでの経験もあり、自分が農業をするなら安全安心で美味しいものを作りたいと思っています。
――なぜぶどうを?
喜義さん:
いざ就農しようと岡山県庁の就農支援課に行くと、岡山で農業するなら桃かぶどうだと言われました。
続けて「桃は8月がちょうど出荷時期だけど、ぶどうは袋掛け作業が終わった夏場8月頃に1か月ほど休憩できるよ」というふうに勧められて…。でも、実際は休憩できていないんですよ(笑)。
「希望」という名のぶどう
――どのようなぶどうを作っているのですか?
まりさん:
10種類以上のぶどうを栽培しています。
シャインマスカット、ピオーネ、オーロラブラック、瀬戸ジャイアンツ、カッタクルガン、コトピー、ウインク、ロザリオビアンコ、サニードルチェなど、見た目も味わいも香りも様々なぶどうたちです。他にも、少量しか作っていないもの、これから収穫できるだろうという品種もありますよ。
また、ばんの農園のオリジナル品種で「ポーラ」というぶどうもあります。
――ポーラ!どのようなぶどうですか?
まりさん:
緑色の果皮にほんのりピンクがかった見た目で、年によって緑が濃かったり、ピンクが濃かったり、不思議な色味のぶどうです。味は甘みと酸味のバランスが良く、皮ごと食べることができます。
喜義さん:
交配というより、枝変わり(枝、葉、花、果実などが、突然変異によって、その個体が持っている遺伝形質とは異なるものになること)によって生まれたんじゃないかなと思っています。
ポーラの房を苗屋さんに持っていったところ、何を掛け合わせたか、何の品種か分からないと言われました。ばんの農園で偶然生まれたぶどうが「ポーラ」なんですよ。
まりさん:
このぶどうに「ポーラ」という名前をつけたのはうちの子どもなんです。調べてみると「希望」という意味にもなる言葉でした。たまたまです(笑)。
届くまでのお楽しみ!旬を届けるぶどう詰め合わせ
――これらのぶどうの詰め合わせがあるとか?
喜義さん:
はい。その季節で一番美味しい『旬のぶどうの詰め合わせ』をご用意しています。
ばんの農園が作る10種類以上のぶどうの中から2~3種類をセレクトしてお届けするのですが、何が届くかは実際にお手元に届くまでのお楽しみです。
僕たち自身も、今日の詰め合わせに入るぶどうは今日収穫してみないとわからないんです。
というのも、同じ品種の樹でも成長具合が微妙に異なり、樹ごとの旬はおよそ二週間。色々な要素を見極めて収穫するので、収穫できる量も、収穫できる品種もその日ごとで変わってくるんです。
そういった方法で収穫しているので、お客様から「この品種のぶどうが欲しいんだけど」と言われたときに、対応することが難しいんですよね。
ですが、うちのぶどうはどれも美味しいですし、そんな当日朝どりした「その瞬間に一番美味しいぶどう」を心を込めてお届けしています。
――お二人のお好きなぶどうは何ですか?
まりさん:
私はピオーネです!うちのピオーネは食べ飽きることなく、ずーっと食べられます。
喜義さん:
う~ん…悩みますが、僕はサニードルチェが好きですね。
うちのピオーネは、召し上がったお客様から「味が濃い」という感想をよくいただきます。濃厚な味わいゆえに「巨峰ですか?」と聞かれたこともあるくらいです。
――ばんの農園のおすすめぶどうは?
喜義さん:
園のいちおしはシャインマスカットですね。
食べた人が口を揃えて「他のシャインマスカットと違う!」と言ってくださるので、特に美味しいかなと思っています。
栽培しているぶどう各々に特徴はありますが、全体的にえぐみが少ないというのがばんの農園のぶどうの大きな特徴です。
雑味がなく、甘みだけでなく酸味もほどよくあるので「子どもが一房食べちゃいました」といった連絡を結構いただくんですよ。
シャインマスカットって少し食べたら満足して、なかなか一房を一人で食べきるのは難しいかと思うのですが、うちのはたっぷり食べられるんです。
まりさん:
そこまで褒めるとちょっとハードルがあがりますね(笑)。
“姿勢”を整えて、強く美味しくなる
――農法のこだわりを教えてください。
喜義さん:
「我が子がぱくぱく食べられるぶどう作り」にこだわっています。だって、大切な人ですから。大切な子どもが食べて安全安心なものづくりがしたいですよね。元気でいれば友達もたくさんできて、その友達や友達の大切な人達にもその元気は届いていきます。
そこから皆にも僕たちの想いを届けることができるんです。
具体的には、無肥料(肥料を与えない)または品種によって小肥料(肥料を減らす)にし、草など植物由来のもので土づくりを行っています。
また、農薬の代わりに酢や植物由来の酵素を散布することで、農薬の使用量を減らしています。殺虫剤を使用する際はBT剤(有機JAS規格適合農薬)が主軸です。
――減農薬というだけでなく、「肥料を使わない/減らす」のもポイントなんですね?
はい。産地で慣行農法(化学合成農薬や化学肥料を使う一般的に行われる農法)でのぶどう作りを学び、有機農法、自然農法、そして植物ホルモンを考える農法を学び、今のオリジナルの農法になりました。
――「植物ホルモンを考える農法」とは?
広島県の道法正徳氏が提唱する「道法スタイル」という農法です。作物の中の植物ホルモンが活性化すれば、肥料や農薬は必要なくなるという考え方で、その植物ホルモンの力を最大限に発揮させるには、剪定など“仕立て方”にポイントがあるというものです。
人間で例えると、ヨガみたいなものですよね。姿勢、つまり樹の形を整えることで身体が強くなる。身体が強くなれば、病にもかかりにくなるというようなイメージです。
――オリジナル農法によってぶどうにどのような変化があるのですか?
喜義さん:
やっぱり味が良くなるような気がしますね。
ばんの農園のぶどうが「えぐみが少ない」のは、作り方による部分が大きいと思います。ぶどうを食べた後、歯がざらざらするような、きしむ感覚がうちのぶどうだとありません。食べやすいぶどうだと思います。
あとは、ぶどうの枝からぶどうの匂いがするようになりましたね。
――枝から匂いですか!?
はい。枝自体に匂いはもともとないのですが、この作り方を何年も続けていたら、枝からぶどうの匂いがするようになってきたんです。
というのも、土づくりは行っているものの、大きく土を掘り返す…というようなことはほとんどしていないんですよね。できるだけ自然のままにしていることが大きいのかなと思います。
また最初の頃は、枝を誘引する際の、ねじったりつぶしたりする作業で、指が真っ黒になっていました。これはぶどうから出るヤニ(樹木が分泌する粘液)なのですが、それが今はほとんどありません。
味だけでなく、五感で「ぶどう」の変化を感じていますね。
あとは菌の力も大事と考えています。ぶどうは例えるならぬか漬けで、土はぬか床のようなイメージです。
発酵食品など、人間にとって身体に良い食べ物には必ず菌がいて、それはぶどうも同じなんですよ。
「思いやりとこだわり」のため3年間を乗り越える
――ご苦労されたのでは?
喜義さん:
そうですね。慣行農法での指導通りに一週間や10日おきに農薬をかけていれば、病気も虫もいない状態になるので、何も考えないで良いんですよね。
でも、農薬を減らそうと思うとこういった「予防のための農薬」はあまり使えないんですよ。
だから、そろそろ虫くるかな?そろそろ病気くるかな?というタイミングを予想しなければならない。つまり、一歩間違えると大失敗になるんです。
まりさん:
色々なことを想像して、五感を使って考えて対処しないといけないので本当に大変ですね。
喜義さん:
今までの経験と、それによって培ってきた感覚、あと、ぶどう以外の作物の様子から予測しています。
「ずっと雨が降っていないからそろそろ降るかな」「今年はいつもより気温が高いな」というようなことを考えつつ、ずっと頭がフル回転しているような感じです。
――失敗されたこともあるんですか?
喜義さん:
慣行農法のぶどう畑を減農薬栽培に切り替えたとき、大失敗をしました。
ぶどうの樹2本分…約600房のぶどうが全滅したんです。病気が原因で、実が大きくなる途中で割れてしまい、食べられそうなぶどうの粒が1房に数粒残っているかどうかほどの状態になってしまいました。
なくなく穴を掘り、そこに埋めることになりました。本当につらかったです。
――減農薬栽培への切り替えが病気の原因?
喜義さん:
それはありますね。農薬に限らず、肥料を減らすことによっても樹が病気になります。
今まで慣行農法だった畑を新しく預かって、肥料を減らしつつ減農薬栽培に切り替えるのですが、ぶどうがきちんと実るようになるまで3年はかかります。
樹が慣れるまでに時間がかかるんですよね。だから、畑を預かる度、3年間はその畑ではうまくぶどうを作ることができないんです。
時間はかかりますが、手間を惜しまず、効率だけを考えず、過程を大事に、丁寧な栽培を心がけています。でも、そんな自分のこだわりを商品にのせられるところが農業の良いところだと思いますね。
まりさん:
「思いやりとこだわりを」。これがばんの農園を立ち上げた時からの農園のポリシーになっています。
コロナ時代を経て農家民宿で「ほっとする」体験を
――農業をしていて嬉しかったことは何ですか?
喜義さん:
子どもが自分たちで作ったぶどうを「美味しい」と言って食べてくれることですね。
まりさん:
でも、子どもが一番好きな果物はいちごなんですよ(笑)。
ぶどうは、いつも畑でつまんで食べています。持ち帰って家でも食べるのですが、時期になると食卓には常にぶどうが並んでいて、各々好きなように食べるというスタイルです。
だからぶどうは特別ではなく、日常なんです。
――これからの目標はありますか?
喜義さん:
農業をしつつ、農家民宿にも取り組んでいきたいです。
ばんの農園が営む「農家民宿ほわ」という名前には、”ほっ”一休みして、都会では味わえない暮らしに”わーっ”と感動して緩んでほしいという想いを込めています。
まりさん:
農家民宿では、宿泊するお客さんが野菜を収穫したり、自然の中を散歩したり、田舎暮らしをのんびり体験できます。
3年前、ちょうどコロナウイルスが流行し出した時期から始めました。だから、まだお客さんにはほとんど来ていただけていないんですよね。これから頑張っていきたいです。
喜義さん:
色とりどり、味わいも香りも様々なぶどうたちは、何よりも子どもが安心して食べられることにこだわっています。食べて心が温まるような優しいぶどうを自然豊かな岡山県吉備中央町よりお届けします。
◎ばんの農園のぶどうは楽天市場でご購入いただけます。
編集後記
まとう柔らかな雰囲気、感じられる芯の強さから、お二人の作るぶどうはきっとどこかほっとするような、しみじみとした美味しさなのだろうなと感じた取材時間でした。 樹の仕立て方を工夫するのはヨガ、菌のいる土はぬか床…自然界と私たちの生活って似ている!人と植物も同じ生き物なのだなと改めて感じます。 偶然が生んだ“希望のぶどう”に出会える可能性にワクワクするのも、今年の楽しみの一つになりそうです。
- この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
- 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
- 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。