愛媛で農薬不使用びわを作る若手農家!日常に癒しを届けるフルーツ玉手箱「唐川びわ」を全国へ
千葉県から愛媛県に移住し、農薬を使わずにびわ作りに取り組むのは浦島農園の亀ノ上僚仁(かめのうえともひと)さん。亀ノ上さんがびわを通して届けたい想いとは?風景とは?大切にしている信念を伺いました。
命の現場で考えた自分の道
――移住して農家に?
神奈川県で生まれ育ち、大学進学を機に千葉県に移住しました。その後、両親の地元である愛媛県伊予市に移り、農家になりました。
農家を志したのは、自然の中で季節を自分の肌で感じながら生活したいという想いがあったからです。
ライフセービングの現場や老人ホームで働く中で人の生死の場面に遭遇したことが、そう思うようになった大きなきっかけでした。
――「ライフセービング」とは?
ライフセービングとは、海などの水辺で溺れている人を救助したり、事故防止の呼びかけを行ったりすることです。
僕は幼い頃から水泳に打ち込み、水泳のスポーツ推薦で高校に入学するほどの選手だったんですよ。その経験を活かし、大学ではライフセービング部に入部しました。そこでは実際に自分が人命救助をしたり、救急車を呼んだりすることが毎年あり、命というものがずっとあるものではないなというのを感じるようになったんです。
――老人ホームではどのような経験を?
大学卒業後、まだ自分のやりたいことが見つからず、母校で非常勤講師という形でライフセービング部のコーチをしながら、その近隣の老人ホームで事務員として働きました。老人ホームでも、身近にお世話になっていた入居者の方が急に亡くなられるということがあり、「自分がどのように人生を終えたいか」ということを強く意識するようになったんです。
「どんな生活がしたいか」と考えた時、四季を感じながら、体力があるうちにやってみたいことをして人生を終えたいと思いました。そこから本気で農業の道に進むことを考え、どんな農業をしようか探り始めたんです。
農業は面白い!両親の反対を乗り越えて
――農業は「自然の中で生きる生活」に繋がっていたんですね?
そうですね。あとは「農業」というものが単純に面白いなと思いました。
――「農業は面白い」と思ったきっかけは?
農家を志し、まずは色々な法人の農家さんを訪問してお話を伺ったり、東京などで開かれる就農説明会に参加してお話を伺ったりしました。それを仕事をしながら1年間続けたんです。
実際に、農家さんが作業されている様子や風景を見たり、農家さんの考えを聴いたりして、単純に作業だけではなく、仕事として、ビジネスとして、面白いなと思いました。
農業は世の中からなくなる仕事ではない。売り方や方法なども自分で決めることができる。僕は、少なくなっているものにはチャンスがあると思うんですよ。農家が減少している今、農業にはチャンスがある!簡単な考え方ですが(笑)。
――農家になることに対して、周囲の人の反応は?
両親は大反対でした。農業研修中から1~2年は反対されていましたね。両親は昔ながらの農業のイメージが強く、大変なのに儲からないと言っていました。
でも「浦島農園」を立ち上げた今は応援してもらっています。忙しい時期は作業を手伝ってもらうこともあるんですよ。生活できているからひとまず大丈夫と思ってもらえているのだと思います。
両親には結婚もできないと思われていたかもしれませんが、僕は研修後すぐに結婚しました。
農家として独立した後、奥さんに2~3年結婚を待ってほしいと伝えたのですが、「別にいいよ!」と言ってくれました。奥さんは僕が農家になることを知ったうえで出会ったので、反対はなかったです。息子も生まれ、農家として父として、日々奮闘しています。
「浦島農園」に込めた想い
――亀ノ上さんの「浦島農園」は…やはりあの昔話?
そうです。亀ノ上の「亀」から連想して、昔話の「浦島太郎」から名付けました。「亀ノ上農園」のように、僕は農園名に自分の名前を使いたくなかったんです。
例えば、これから農園の規模が大きくなると、手伝いに来てくれる方もいらっしゃると思います。その時に「亀ノ上農園に手伝いに来た」と言うと、その人が僕のために働いているような気にならないかなと思ったんです。農園での手伝いは僕のためだけというわけではない。農園で作業する人は皆リーダーという気持ちでいます。
僕は学生時代、部活動でキャプテンや副キャプテンをしていました。その時、リーダーがリードするのではなく、一歩引いてチームメイトを見守る方が良い組織、良いチームになることを体感したんです。だから農家になった今、自分の名前を農園名に入れて自分がリーダーというようにはしたくなかった。それが農園名の僕のこだわりです。でも「浦島」なので「亀ノ上」の色はしっかり出ていますよね(笑)。
――ロゴもお洒落ですね?
「亀ノ上」という名前にある亀をイメージし、亀の甲羅模様と果物を組み合わせています。幼馴染のデザイナーに依頼し、昨年完成しました。学生時代からずっと幼馴染が書いている落書きが好きだったので、ロゴを作成する時はお願いしようと決めていました。亀の甲羅模様は縁起が良く、長く応援していただける農家を目指すという想いを込めています。
――いいですね。果物は何を作っているのですか?
柑橘は不知火(しらぬい)や愛果28号、他にキウイ、びわを作っています。
でも、最初はトマト農家になろうと思っていました。見学させていただいたのは果物の農家さんではなく、皆トマト農家さんだったんですよ。
――トマトから果物へ。その理由は何ですか?
農産物はとにかく安くしないと売れません。同じ地域で、同じように作っている中で他よりも多く売るためには、とにかく価格を下げる必要があるんです。農家が生き残っていくためには、その土地名産のものを、日本全国に販売できたほうが良いのではないかと思いました。
そこで、愛媛県伊予市に合ったものを作ろうと思い、地域の名産品である「びわ」を選びました。
「唐川びわ」を全国に届けたい
――「唐川びわ」とは?
「唐川びわ」は愛媛県伊予市で作られるびわのことを指します。ここは日本で一番出荷が遅い産地と言われているんですよ。僕がつくっている「田中」という品種のびわは、実が大きく肉厚な果肉が特徴で、甘みと酸味のバランスが絶妙なんです!
ただ、びわ農家は研修先になかったので、独学でびわ作りに挑戦しています。毎日手探り、毎日勉強です。植物、果樹の根本、自然の摂理は同じだとは思っているのですが、仮説をたて、あぁやっぱりこうだったかと結果を確認することを繰り返しています。
果樹は収穫が1年に1回しかないので、仮説検証の周期が長いのが大変です。だからびわ作りは、他の果物栽培と平行して、毎年勉強をしながら取り組んでいます。
――びわのおすすめの食べ方は?
皮をむいてそのまま食べるのが一番です!
びわの実はとても繊細で、収穫後2~3日で黒ずんでしまいます。お手元に届いたらまずはそのまま召し上がってください。すぐに食べきれない分はコンポートにするのがおすすめです。
浦島農園のびわは、ほぼ完熟の状態で朝どりし当日発送!びわの実は、大きくなり熟していくにつれて、黄色に色づき、最後にはお馴染みのオレンジ色になります。びわらしいオレンジ色に変わったタイミングで味が引き締まりぐっと美味しくなるんです。その様子を見つつベストタイミングで収穫できるようにしています。鮮度命の完熟びわを是非お試しください。
急斜面にそびえ立つ!先人の知恵が生む甘さ
――農法のこだわりは?
農薬、化学肥料、除草剤不使用なので安心して召し上がっていただけるのはもちろん、昼と夜の寒暖差が大きいので、実が糖分をため込み、とても甘くなります。また、木が植えられている場所にも美味しさの秘密があるんですよ。見てみてください!
――かなり急な斜面ですね?
はい、斜面に植えると水が地面にたまりません。平らな園地だと水が底に残り、木が水を吸い続けてしまうんです。そうすると実の味が薄くなってしまいます。甘い実を実らせるため、昔の人はあえてこの斜面に木を植えたんですね。また、傾斜があることで日当たりが良くなるのも実が甘くなるポイントです。
――この斜面だと作業が大変そうですね?
そうですね、ここで作業するのはかなり大変です。少しでも楽にするため、足場は自分で整備しました。僕は既に大人の木になっている園地を借りたのですが、木と木の間隔もしっかりあるため、枝がのびのび広がっています。ちょっと大きすぎるくらいです。でも、このような大人の木が実らせる実の味は落ち着きがあって良いんですよね。
――「落ち着きがある」とはどういうことですか?
持論なのですが、人間でも若い人はエネルギッシュですよね。だから話す言葉や考えも荒ぶるし、勢いがある。果樹も同じで、苗を植えて初めにできる実はものすごく大きくなってしまうんです。エネルギーが有り余っているイメージですね。一方、年齢を重ねた大人になると、人生経験を積んで話し方も落ち着いてきますよね。このびわは20~30年の大人の木なので、実らせる実は落ち着きがある味になっています。美味しいこと間違いないと期待しています。
ひとつひとつに込めた愛情が実を守る
――農薬不使用の栽培で大変なことは?
実の一個一個に袋をかける作業が大変ですね。袋をかけることで、雨や風によって実に菌が入り、病気になることを防いでいます。多くの農家さんが農薬を使う理由が、このびわの実の繊細さなんです。昨年は約8000個の袋かけを行いました。両親にも手伝ってもらい、3人で行いましたが2~3週間はかかりましたね。
また、びわの木の枝の切り口から菌が入り、その枝が丸ごと枯れてしまうということがあります。切り口に農薬を塗れば簡単に防ぐことができるのですが、僕は農薬を使わないので、切り口にビニール袋をかけて菌が入らないようにしています。
――気が遠くなりそうですね?
いや、作業で大変ということはそんなにないかな。それより商品をお客さんに届ける時に、プレッシャーを感じてそわそわします。ご注文いただいた分、きちんと用意できるかな、良いものをお届けしたいな、味は大丈夫かなと思います。
――農業をしていて嬉しい瞬間は?
やっぱり「美味しかったよ」という言葉をいただく時が一番嬉しいです。とにかくたくさん売るというよりも、一件でも良かったよ!と言ってもらえるほうがずっと嬉しい。そういったメッセージはSNSからいただきます。
SNSは全て僕が投稿していて、「何気ない日常」を見てもらうことを大切にしています。僕の投稿を見て、気分転換してもらえたら嬉しいです。だから、販売のお知らせはシーズンに1度だけにして、しょうもないこともとりあえず見てもらおう!という精神で投稿しています。
日常に小さな幸せを届けたい…風景と物語をびわに込めて
――亀ノ上さんの未来の展望をお聞かせください
びわを食べてくれる人がこの風景を感じて癒されてもらえれば嬉しいです。
僕は、この作物が作りたいから、儲けたいからという理由で農業を始めたわけではなく、人間らしく生きたいという幸せを求める暮らしの面から農家になりました。そんな僕の農園のモットーは「農業を身近に。日常に小さな幸せを届ける。」です。
以前、幸福度が高い国は農家が多いという資料を読みました。農家が多いということは人と食が近い。暮らしと食が近い。それが幸福につながっているというような内容でした。今の日本人は、良い車を買ったり、良いブランドものを買ったりということが幸福の指標になっているように思います。でも1日に3回ある“食べる時間”が幸せだと思えたら、それはもう幸せなんじゃないかなと思うんです。言い換えれば、食事というタイミングで幸せを感じる瞬間が3回もある。この時間を大切にするほど幸せは広がると思います。
だから、泥臭く地味なことをして作った僕のびわを食べて、「こういう人が頑張っているからこれができたんだな」というような物語が伝わったら良いなと思っています。浦島農園のびわを通して、うららかな瀬戸内の気候や穏やかな暮らしを感じ、それが日常の小さな幸せになれば嬉しいです。
◎浦島農園さんのびわ・キウイ・愛媛果試第28号は楽天市場でご購入いただけます。
編集後記
農業と食、食と暮らし、暮らしと幸せを一連に捉え、ご家族と助け合いながら農業に励まれている亀ノ上さん。丁寧にお話される様子からは、亀ノ上さんが積み重ねてきた経験の重みと磨いてきた信念の強さを感じました。「是非収穫しに来てください!」「いつでもこの風景を見に来てください!」優しくお声かけしてくださる笑顔と山上で吹く爽やかな風にとっても癒されました。
- この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
- 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
- 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。