下津の「蔵出しみかん」は知る人ぞ知る逸品!ファンに愛され続ける日本農業遺産の伝統技法がここに

下津の「蔵出しみかん」は知る人ぞ知る逸品!ファンに愛され続ける日本農業遺産の伝統技法がここに
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最終更新日:2024.10.30 公開日:2022.11.07

熟成させてこっくり甘くなる「下津の蔵出しみかん」をご存知ですか? 有田みかんと並ぶ長い歴史を持つみかんの産地、和歌山県下津町。そんな下津で代々続く鈴木農園の鈴木洋至(すずきようじ)さんにお話を伺います。

目次

本格貯蔵みかんを和歌山県下津町より

本格貯蔵みかんを和歌山県下津町より

――ご実家がみかん農家なんですね?
はい。和歌山県海南市下津(しもつ)町のみかん農家の家に生まれ、家業を継ぐものだと思って過ごしていました。
みかんの仕事は小さい頃から手伝っていましたし、特に嫌いということはなかったですね。農業大学校を卒業後、家業を継ぐ形でみかん農家になりました。

 ――下津町ではみかん作りが盛んなのですか?
和歌山県のみかんといえば有田で作られている「有田みかん」が有名ですよね。
鈴木農園の位置する下津町という地域は、その有田のお隣にあります。実は、下津のみかんは有田みかんと同じくらい長い歴史を持っています。

下津は雨が少ない地域

下津も有田も、降水量が少なく四季を通じて温暖な気候で、この環境がみかん作りに最適なんです。
昔、下津では塩作りが行われていたそうなのですが、雨厳禁のよく乾燥している土地で行われる塩作りの歴史があるほど、下津は雨が少ない地域なんですよ。

また、日当たりと水はけが良い石垣の段々畑も美味しいみかん作りには欠かせないポイントです。夏場に雨が少なく、樹にちょっとストレスがかかるくらい日が照ることで、濃厚な甘さの美味しいみかんが育ちます。
加えて、下津の土にはミネラルが多く含まれていることも美味しいみかんが育つ理由と言われています。

下津町には見渡す限りみかん畑が広がっていますが、鈴木農園をはじめ、全てのみかん畑はご先祖様たちがこつこつ作り上げてきたもの。
代々受け継がれてきたみかん畑から太陽の光をたっぷり浴びた美味しいみかんをお届けします。

「下津のみかん」の特徴

――「下津のみかん」の特徴を教えてください。
下津のみかんと有田みかんとの大きな違いは、メインとなるみかんの出荷方法です。

有田では収穫後すぐ発送するみかんが主軸なのに対し、下津では収穫後貯蔵して熟成させてから発送するみかんが主軸になります。
下津は日本でも珍しい本格的な貯蔵みかんの産地で、下津で作られる貯蔵みかんを「蔵出しみかん」と言います。蔵出しみかんについては後ほど詳しく説明しますね。

季節で移ろう味わい異なる2種類のみかん

季節で移ろう味わい異なる2種類のみかん

今回、鈴木農園からは下津で育った「早生みかん」、そして下津特産の「蔵出しみかん」の2種類の温州みかんをお届けします。
お届け時期が異なるのはもちろん、味わいや食感も異なるので是非食べ比べてみてほしいです。

「早生みかん」は、11月中旬から12月に旬を迎える、程よい酸味とまろやかな甘みが楽しめるみかんです。「年内に食べるみかん」がこちらです。
みかんの子房を覆う「じょうのう膜」という袋の皮が薄くて食べやすく、外皮をむいてそのまま手軽に食べることができるので、小さなお子様やご年配の方にも人気があります。一般的に「温州みかん」として認知されているみかんだと思います。

鈴木農園のこだわりは何と言っても農家直送。新鮮だからこそのプチプチとした食感の甘酸っぱいフレッシュな味わいを楽しんでいいただけると思います。

蔵出しみかん

「蔵出しみかん」は、12月上旬頃に収穫したみかんを蔵の中で1~2か月間貯蔵し、熟成させたみかんです。貯蔵後1月中旬~2月下旬頃が美味しい旬の時期にあたります。
「年明けに食べるみかん」がこちらです。
熟成させることで酸味がまろやかになり、こっくりとした濃厚な甘さが際立つみかんになります。また、果肉全体に果汁が回るのでとろっとした食感になるのも特徴の一つです。

伝統技法でじっくり熟成「蔵出しみかん」

伝統技法でじっくり熟成「蔵出しみかん」

――どのように貯蔵するのですか?
特製の木箱に入れて、土壁の蔵の中で貯蔵します。
全国各地で貯蔵みかんは作られていますが、下津町に古くから伝わる土壁の蔵で貯蔵する技術は「下津蔵出しみかんシステム」と呼ばれ、2019年に日本農業遺産に登録されました。

鈴木農園には祖父の代から引き継がれている伝統的な土壁の蔵があります。戦時中の空襲で一度焼けてしまったそうですが、戦後に建て直してからは修繕しつつ今日まで引き継がれてきました。

――「土壁」には理由が?
土壁が倉庫内の温度をひんやりとした一定の温度に保ち、湿気もほどよく吸ってくれるので、みかんの品質を損なわずに熟成させることができるんです。

美味しさと安心安全の認定多数

――すごい!みかんが詰まった木箱がずらっと重なっていますね
この木箱はおよそ3,000箱はあると思います。
「鈴木農園」と名入れされているのが見えますか?木箱も空襲で一度全て焼けてしまったそうなので、戦後から大切に使っているものになります。土壁同様に湿度を保つのに役立っているんですよ。
貯蔵に最適な環境を作りつつ、定期的に見回り、痛みがないか果実の様子をチェックすることも欠かさずに行っています。

早生みかんと比べ、蔵出しみかんになる晩生(おくて)のみかんは、外皮や袋の皮が硬く、収穫直後は手で外皮を剥くのも難しいほどなんですよね。でも、伝統的な土壁の蔵と特製の木箱でじっくり熟成させることで、皮は柔らかく酸味はまろやか、濃厚なコクのある味わいになるんです。

下津の蔵出しみかんは知る人ぞ知るみかんのため、年内に食べる早生みかんと比べて外皮や袋の皮が硬いことに驚かれるお客様が多いです。
ただ、しっかりとした外皮、袋の皮があるからこそ、腐ることなくじっくりと時間をかけて熟成させた味わいを楽しむことができるんですよ。

鈴木農園の農薬との向き合い方

鈴木農園の農薬との向き合い方

――農法にこだわりはありますか?
みかんはお客様だけでなく、自分も、そして家族も口にするものです。綺麗な見た目も大事ですが、安心して召し上がっていただけるかも大事だと思っています。

そのため、鈴木農園ではできるだけ農薬を使わずに栽培しています。
できる限り農薬の使用は抑えたい!というのが僕たちの想いです。でも、40年50年と一緒に過ごしてきた樹を枯らしてしまうような病害虫もあるため、必要最低限の農薬は必要だと考えています。

樹が弱らないように、枯れないように、樹が健康に育つように、バランスを考えつつ農薬の使用を行うようにしています。

減農薬みかん

できるだけ農薬を抑えて栽培しているので、鈴木農園のみかんは見た目があまり良くないかもしれません。
昨年のみかんは失敗したと言っていいくらい見た目が悪くなってしまいました。画像が昨年の実際のみかんになります。クレームがくるのを覚悟していたのですが、お手紙やお電話で逆にたくさんの応援メッセージをいただいたんです。

――どんなお言葉をいただいたのですか?
「見た目は残念やけど味は最高に美味しかったよ」「味はいつも通りやね」「見た目なんて関係ないから、そのまま頑張ってください」…。

皆さん受け入れてくださってとても嬉しかったですね。
家族のように思ってくださっているお客様もいらっしゃって、普通のお店とお客様とはどこか違った特別な関係だなと感じています。ありがたいですね。

HPが紡ぐ農園の歴史

HPが紡ぐ農園の歴史

――農業をされていてつらかったご経験はありますか?
大粒の雹(ひょう)が降って、収穫前のみかんの大半に穴が開いてしまったことがありました。
樹の表面に実っていたみかんは雹が当たって皮がえぐれてしまい、中の実が潰れてしまったんです。収穫予定のみかんの3分の1ほどが廃棄となってしまいました。

あと、2018年には大雨が降って段々畑が流されてしまったこともありましたね。
植わっていたみかんの樹はもちろん、地面ごと流されてしまい、まさに跡形もなくなってしまいました。

やっぱり自然災害はどうしようもないですね。ひどい時は何をしてもだめですし、自然には勝てないなと思います。
このような農園で起きたことは鈴木農園のHPに残しています。

HPには20年以上前の記事

――HPには20年以上前の記事もありますね?
はい。HPには日々の作業日記をはじめ、台風や豪雨など、農園が経験した災害の記録も残しています。
近年だと、2018年の西日本豪雨と台風20号の被害と復旧の様子をTOPページのリンクからご覧いただけます。

――インターネット販売を始めたのもその頃からですか?
そうですね。鈴木農園がインターネット販売を始めたのは2000年なので、22年が経ちます。
自分で販売してみようと思ったのは、農業大学校に通っていた時、和歌山県田辺市の梅農家に研修に行ったことが大きなきっかけです。そこでは、自分たちで作った梅を自分たちで梅干しに加工し、自分たちで商店へ向けて販売していました。
市場や農協・生協に出荷する方法しか知らなかった僕は、そこで「自分たちで作って自分たちで売る」農業の形もあることを知ったんです。

当時、「元気ねっと」という日本全国の農家が集まり、インターネット販売を主軸に横のつながりを強めようというネットワークがありました。
そこでしっかり売り上げている方もいらっしゃったので、やれば売れるんだなと思い、鈴木農園もインターネット販売に取り組み始めたんです。

その頃は、インターネット販売に取り組む農家は周囲にほとんどいなかったです。
近隣の農家が収穫で忙しい時期に、僕たちはHP用の写真のためにカメラを持って畑に行くんですよ。「何しているんや?」と皆が横目で見ていましたね。
もちろん最初は全然売れなかったのですが、今では毎年注文してくださる常連さんがほとんどです。

妻は、お客様から注文の電話がかかってくると声で誰か分かるそうですよ(笑)。

「昔ながらのみかん」を未来へ

「昔ながらのみかん」を未来へ

――鈴木さんの思う「農業の面白いところ」を教えてください。
みかんを作ることにおいても売ることにおいても、自分で考えて試すことができるところですね。
挑戦してみて結果に結びつくと嬉しいですし、失敗したら次の年は視点を変えて工夫しながら再挑戦して…。農業は自分の思い通りにできるところが面白いと思います。

例えば最近だと、近所で上手にみかんを作る方がいらっしゃるのですが、その方の作り方を学んで、樹の形を変えてみています。販売面だったら、見せ方や伝え方を工夫して…。日々少しずつアップデートしていけたらなと思っています。

挑戦する中で小さい失敗はもちろんいっぱいあります。
皆さんそうだと思うのですが、少しずつ色々な方法を試しながら、色々な視点から取り組んでいます。挑戦を繰り返して上手くいったこと、良かったことを20年積み重ねてきてここまできました。

気持ちが沈んだら大自然でリフレッシュ

――今後の目標はありますか?
9歳になる子どもがいるのですが、10年後にはみかん農家を継ぎたいと思ってもらえるような農家になっていたいですね。
下津でも感じていますが、農業界は高齢化が進み、厳しい現状だと思います。そんな中でも若者が農業をやってみたいと思い、それが実現できる環境が作れたら良いなと思います。

 最適な自然環境、伝統的な貯蔵技術、作り手の丁寧な日々の作業。その全てが重なり、甘みと酸味のバランスが絶妙な「昔ながらの懐かしい味わい」を生み出します。
鈴木農園がお届けする甘酸っぱい早生みかん、こっくり甘い蔵出しみかん、季節と共に移り変わる味わいを是非ご賞味ください。

◎鈴木農園の早生みかん・蔵出しみかんは楽天ファーム楽天市場店でご購入いただけます!

編集後記

取材時には奥様もご同席され、仲が良さそうな様子にほっこりしました。
マイルールは家族皆で晩御飯を食べること、ご趣味はお子さんと卓球やテトリスをすること。ご家族と過ごす時間を大切にされる鈴木さんが作るみかんが「昔ながらの懐かしい味わい」と称されるのは、そんな温かい家族の光景が浮かぶのも理由の一つかもしれません。
「今年はどうかな」…鈴木さんのみかんは、鈴木農園を自身の家族のように思うお客さんにとって、元気を知らせる便りになっているだと思いました。

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。
CATEGORY :農家さん

ライター情報

  • Noumusubi
  • 額見奈央

    楽天農業株式会社の2020年新入社員。石川県生まれ、奈良で学生時代を過ごして、愛媛にやってきました。「人にも環境にも優しく、人のつながりが生まれ続いていく」そんな地域に根差した農業を目指しています♪女子大出身・農業未経験女子だって農業ができることを発信していきます。

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