インタビュー 1房3万円?! 小学生から研究を続けた「夢のぶどう」がついに完成

日本に2人しかいない?!と噂の、有機JAS(オーガニック)認証のぶどう農家、山口県 亀の甲農園の三隅 忠典(みすみ ただのり)さん、65歳。農薬不使用では出来ないと言われてきた果樹の栽培に、果敢に挑み続けたその人生を伺ってきました。

あのぶどう、腹いっぱい食べたい

小学生の時、近くのスーパーに行きましたら、陳列棚の最上段に、ぶどうの化粧箱があって、その中にぶどうの房が入ってて、まぁ美味しそうに見えたのよ。
「ああ、あのぶどう食べたいなぁ」
と思ったの。まぁ子供やから、自分が食べたいと思ったら食べたいんじゃ、でも買えない。どろぼうもできん。

「それなら苗を買って、畑に植えたら、腹いっぱい食べれる!」
と思ってね。それがきっかけ。はははははは!!!!

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

正月に親戚からもらったお年玉で苗を買って、畑に植えたの。子供だから、植えっぱなし。で、ならんかった。ははははは。

そこから勉強が始まったのよ。
ぶどうの育て方の本を買って読んでみると、いついつにこの農薬をまくとええよとか、これはこういう病気にええよとか、こういう虫にええよとか、そういうことが書いてあった。だからその通りにやりました。そしたら、いいものが出来ました。腹いっぱいにならんまでも、みてくれもいいものが出来ました。

でも…その時に感じたのは、農薬…か…

農薬を使わない!中学生の決意

おやじは小学校一年の時に死にました。
うちは先祖代々の米農家で、働く様子を近くで見てたから、おやじが死んだ時に、農薬は絶対に体にええことないなと、子供ながらにそう感じたの。

だから将来、みんなに食べてもらうために「農薬を使わないぶどうを作ろう!」と決めました。それが中学生の時でした。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

農薬を使わない方法は、どこにもない。

20歳までの間に基礎研究。植える、病気にやられる、虫にやられるの繰り返し。こっちも一生懸命つくるから頭にくるじゃない?

まず病気、梅雨の長雨にかかると、絶対に病気になる。雨にかからんようにしたら、病気が減る。100%は無理だけど。

虫は、かなぶんが葉っぱを食べる。とらかまきりは卵をうんで、春になったら幹を食べちゃう。すると棚がパー!もう頭にくる。
だから虫がこないように、メッシュで囲うといいなとか、経験則から法則をみつけていった。

農地を入手、内緒で結婚

20歳の時、列島開発ブームが起きて田を現在のブドウ園の土地と等価交換した。
草木がボウボウの原野、近隣との境界線も決まっていない、ゼロというよりマイナスからのスタート。これが大変だった!ぜんぶ1人でやったよ。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

私は気が長いので、決めたら何十年かかろうがやりぬく性格。これは長期戦になることはわかったから、会社に就職し、稼いだお金も全部ここにつぎ込むことにした。

27歳で結婚。私がこういうことをしてるのは妻に内緒だった。言うたら反対するのわかっちょったから。女房だましておりました。ははははは。

総工費、1億円?!の設備

ぶどうの個人農家が、こんな建物たてちょる、ほんとバカ。

昔、台風でビニールハウスが何回も、飛んで行ったり、ぺしゃんこになってるのを見てた。せっかく頑張って作ったのに、そんなんで全滅したら、立ち直れない。また一からせにゃいけんなんて、絶対に嫌だ。だから少々の気候変動に耐えられる、頑丈すぎる設備にした。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

大型H鋼構造のハウスで、1000㎡強の広さの1つ屋根。雨が直接作物にかからず、害虫が侵入できないように周囲は網で囲って、外気は自然に出入りしている。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

堆肥も研究を重ね、「完熟発酵堆肥」を開発し、自家生産で大量に作るための設備を整えた。資材にお金をかけることはいとわない。

もう総工費でいったら、1億くらいかかってるけど、お金じゃない!女性は女房だけでいい、ギャンブルもいい、たばこもいい、お酒はすこし…すべては夢のため!

何度も泣いた、長い道のり

40歳で建物をたて、そこから10年かけて土づくり。50歳で山口県のエコやまぐち100をとった。農薬、化学肥料を使っていない県の認証だ。でも、まともなぶどうはできかんかった。

54歳で有機JAS認定をとった。農林水産省の認定だ。まだまだ、まともなぶどうはできない。

ぶどうの新芽はぐんぐん伸びる。そしたらええと思うやろ?ぜんぜん良くない。何が悪いかというと、棚の上がジャングルになるわけ。日当たりは悪い、風通りも悪い、ぶどうの房はほどんどならん。自分はなんで房を作らんで、枝葉ばっかり作るんだろうかと悩んだ。

それからまだ勉強じゃ。ぶどうに関する本を何十冊と読んだ。やっと1つヒントをみつけ、ぶどうの成長をコントロールする剪定方法を発見。3年かかって、枝葉がピタッと止まった。

枝葉が止まり、ぶどうがなった!
なったけど、収穫時期になると劣化が起こって、皮が割れてしまった。そこから黒カビが生えた。原因は水だった。水はやらんでも、地下の水が毛管現象であがってくることに気づいて、地下水の水位を調節するようにした。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

劣化がなくなり、いざ収穫!
って時に、軸が枯れて、房がボトンと落ちた。それは、ぶどうの房に栄養がいかなくなって、腐ってしまう病気が原因だった。

やっぱり果樹は農薬を使わないといいものができんのか…
何度も何度も、泣きましたよ。女房おふくろからも、ぼろくそ言われた。だけど反論しなかった。諦めなかった。

ついにきた!夢のぶどうが完成

小学生の時に描いた「あのぶどう、腹いっぱい食べたい」という夢、中学生で決めた「農薬を使わないぶどうを作ろう!」という夢、ついに64歳で叶えました!!!今から2年程前です。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

病気に負けない、元気なぶどうを作るために「有用微生物群」を、土の中にも、大気中にも、高密度で増殖させる研究を重ねた。目で見えないからわかりにくいけど微生物って大切なんよ。

そして出来上がったのが、竹の微粉と米ぬかで作った「完熟発酵堆肥(かんじゅくはっこうたいひ)」。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

この完熟発酵堆肥の中には、有用微生物群とよばれる糸状菌、放線菌などがたくさん眠っている。春になったら気温と上昇と共に、活動が始まって、地中に入って行ったり、空気中にもでていく。うん、いいにおい。

このお陰で、農薬を使わない美味しいぶどうがついに完成!しかも収穫期間が8月~10月をとうに超えて、昨年は12月20日でもまだなっていた。今年は昨年の倍、1000㎡に1.2㌧の完熟発酵堆肥を入れていて、状態がすごくいいので、年越しぶどうができるかもしれない。

夢が夢を叶えていく
1房3万円?! のピオーネ

Ragriには2種類の「ピオーネ」を出している。1級品が1~2房で7,956円、最高級品が1房29,553円。違いは房の形の良さや大きさだが、味はどちらも全くえぐみがないのが特徴で、さらっとしている。

石川県でしか作ってはいけない品種、ルビーロマンはわかる?毎年セリ値が話題になる、1房700gで百万円を超えるぶどうや。それは食べてみたい!と思って3万円位の時に買ってみた。

「私のぶどう」vs「ルビーロマン」、食べ比べようと思うて、20名集めて比較してもろうた。
2割の人は、どっちのぶどうもええね。
8割の人は、三隅さんのぶどうがええね。えぐみ、苦味がないから、なんぼでも食べれる。と言ってくれた。

感じ方は人によって様々だけど、私の場合は、ぶどうの実が安心して子孫を残せる工夫をしてるから、えぐみや苦味成分のアルカロイドという物質を、実の中に発生させる必要がないんだと思う。

山口県 亀の甲農園の三隅 忠典

今まで印象に残っているのは、化学物質過敏症の子供をもつお父さんが、私のピオーネをみつけてくれて、「ぶどうが食べたい!という息子の夢が叶った。食べても何の影響もでない。ありがとう。」と北海道から連絡をくれたこと。

私の夢であった「あのぶどうを腹いっぱい食べたい、農薬を使わないで作りたい」を叶えたことで、別の少年の夢も叶えることができて、本当に嬉しかった。今まで60年、諦めないでよかった。これからも「夢のぶどう」を作り続けて、たくさんの方に届けたい。

編集後記

スーパーでみた巨峰が食べたい!そこから始まった三隅少年の夢が、なんと60歳を過ぎても続いているという、そのエネルギーに圧倒されました。不可能を可能にした人がコツコツと成し遂げた実話。私自身、胸があつくなりました。
(担当:Motty)