1房3万円?! 小学生から研究を続けた「夢のぶどう」がついに完成

1房3万円?! 小学生から研究を続けた「夢のぶどう」がついに完成
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最終更新日:2021.10.20 公開日:2018.06.28

日本に2人しかいない?!と噂の、有機JAS(オーガニック)認証のぶどう農家、山口県 亀の甲農園の三隅 忠典(みすみ ただのり)さん、65歳。農薬不使用では出来ないと言われてきた果樹の栽培に、果敢に挑み続けたその人生を伺ってきました。

目次

あのぶどう、腹いっぱい食べたい

小学生の時、近くのスーパーに行きましたら、陳列棚の最上段に、ぶどうの化粧箱があって、その中にぶどうの房が入ってて、まぁ美味しそうに見えたのよ。
「ああ、あのぶどう食べたいなぁ」
と思ったの。まぁ子供やから、自分が食べたいと思ったら食べたいんじゃ、でも買えない。どろぼうもできん。

「それなら苗を買って、畑に植えたら、腹いっぱい食べれる!」
と思ってね。それがきっかけ。はははははは!!!!

正月に親戚からもらったお年玉で苗を買って、畑に植えたの。子供だから、植えっぱなし。で、ならんかった。ははははは。

そこから勉強が始まったのよ。
ぶどうの育て方の本を買って読んでみると、いついつにこの農薬をまくとええよとか、これはこういう病気にええよとか、こういう虫にええよとか、そういうことが書いてあった。だからその通りにやりました。そしたら、いいものが出来ました。腹いっぱいにならんまでも、みてくれもいいものが出来ました。

でも…その時に感じたのは、農薬…か…

農薬を使わない!中学生の決意

おやじは小学校一年の時に死にました。
うちは先祖代々の米農家で、働く様子を近くで見てたから、おやじが死んだ時に、農薬は絶対に体にええことないなと、子供ながらにそう感じたの。

だから将来、みんなに食べてもらうために「農薬を使わないぶどうを作ろう!」と決めました。それが中学生の時でした。

農薬を使わない方法は、どこにもない。

20歳までの間に基礎研究。植える、病気にやられる、虫にやられるの繰り返し。こっちも一生懸命つくるから頭にくるじゃない?

まず病気、梅雨の長雨にかかると、絶対に病気になる。雨にかからんようにしたら、病気が減る。100%は無理だけど。

虫は、かなぶんが葉っぱを食べる。とらかまきりは卵をうんで、春になったら幹を食べちゃう。すると棚がパー!もう頭にくる。
だから虫がこないように、メッシュで囲うといいなとか、経験則から法則をみつけていった。

農地を入手、内緒で結婚

20歳の時、列島開発ブームが起きて田を現在のブドウ園の土地と等価交換した。
草木がボウボウの原野、近隣との境界線も決まっていない、ゼロというよりマイナスからのスタート。これが大変だった!ぜんぶ1人でやったよ。

私は気が長いので、決めたら何十年かかろうがやりぬく性格。これは長期戦になることはわかったから、会社に就職し、稼いだお金も全部ここにつぎ込むことにした。

27歳で結婚。私がこういうことをしてるのは妻に内緒だった。言うたら反対するのわかっちょったから。女房だましておりました。ははははは。

総工費、1億円?!の設備

ぶどうの個人農家が、こんな建物たてちょる、ほんとバカ。

昔、台風でビニールハウスが何回も、飛んで行ったり、ぺしゃんこになってるのを見てた。せっかく頑張って作ったのに、そんなんで全滅したら、立ち直れない。また一からせにゃいけんなんて、絶対に嫌だ。だから少々の気候変動に耐えられる、頑丈すぎる設備にした。

大型H鋼構造のハウスで、1000㎡強の広さの1つ屋根。雨が直接作物にかからず、害虫が侵入できないように周囲は網で囲って、外気は自然に出入りしている。

堆肥も研究を重ね、「完熟発酵堆肥」を開発し、自家生産で大量に作るための設備を整えた。資材にお金をかけることはいとわない。

もう総工費でいったら、1億くらいかかってるけど、お金じゃない!女性は女房だけでいい、ギャンブルもいい、たばこもいい、お酒はすこし…すべては夢のため!

何度も泣いた、長い道のり

40歳で建物をたて、そこから10年かけて土づくり。50歳で山口県のエコやまぐち100をとった。農薬、化学肥料を使っていない県の認証だ。でも、まともなぶどうはできかんかった。

54歳で有機JAS認定をとった。農林水産省の認定だ。まだまだ、まともなぶどうはできない。

ぶどうの新芽はぐんぐん伸びる。そしたらええと思うやろ?ぜんぜん良くない。何が悪いかというと、棚の上がジャングルになるわけ。日当たりは悪い、風通りも悪い、ぶどうの房はほどんどならん。自分はなんで房を作らんで、枝葉ばっかり作るんだろうかと悩んだ。

それからまだ勉強じゃ。ぶどうに関する本を何十冊と読んだ。やっと1つヒントをみつけ、ぶどうの成長をコントロールする剪定方法を発見。3年かかって、枝葉がピタッと止まった。

枝葉が止まり、ぶどうがなった!
なったけど、収穫時期になると劣化が起こって、皮が割れてしまった。そこから黒カビが生えた。原因は水だった。水はやらんでも、地下の水が毛管現象であがってくることに気づいて、地下水の水位を調節するようにした。

劣化がなくなり、いざ収穫!
って時に、軸が枯れて、房がボトンと落ちた。それは、ぶどうの房に栄養がいかなくなって、腐ってしまう病気が原因だった。

やっぱり果樹は農薬を使わないといいものができんのか…
何度も何度も、泣きましたよ。女房おふくろからも、ぼろくそ言われた。だけど反論しなかった。諦めなかった。

ついにきた!夢のぶどうが完成

小学生の時に描いた「あのぶどう、腹いっぱい食べたい」という夢、中学生で決めた「農薬を使わないぶどうを作ろう!」という夢、ついに64歳で叶えました!!!今から2年程前です。

病気に負けない、元気なぶどうを作るために「有用微生物群」を、土の中にも、大気中にも、高密度で増殖させる研究を重ねた。目で見えないからわかりにくいけど微生物って大切なんよ。

そして出来あがったのが、竹の微粉と米ぬかで作った「完熟発酵堆肥(かんじゅくはっこうたいひ)」。

この完熟発酵堆肥の中には、有用微生物群とよばれる糸状菌、放線菌などがたくさん眠っている。春になったら気温と上昇と共に、活動が始まって、地中に入って行ったり、空気中にもでていく。うん、いいにおい。

このお陰で、農薬を使わない美味しいぶどうがついに完成!しかも収穫期間が8月~10月をとうに超えて、昨年は12月20日でもまだなっていた。今年は昨年の倍、1000㎡に1.2㌧の完熟発酵堆肥を入れていて、状態がすごくいいので、年越しぶどうができるかもしれない。

夢が夢を叶えていく 1房3万円?! のピオーネ

石川県でしか作ってはいけない品種、ルビーロマンはわかる?毎年セリ値が話題になる、1房700gで百万円を超えるぶどうや。それは食べてみたい!と思って3万円位の時に買ってみた。

「私のぶどう」vs「ルビーロマン」、食べ比べようと思うて、20名集めて比較してもろうた。
2割の人は、どっちのぶどうもええね。
8割の人は、三隅さんのぶどうがええね。えぐみ、苦味がないから、なんぼでも食べれる。と言ってくれた。

感じ方は人によって様々だけど、私の場合は、ぶどうの実が安心して子孫を残せる工夫をしてるから、えぐみや苦味成分のアルカロイドという物質を、実の中に発生させる必要がないんだと思う。

化学物質過敏症の子供をもつお父さんが、私のピオーネをみつけてくれ

今まで印象に残っているのは、化学物質過敏症の子供をもつお父さんが、私のピオーネをみつけてくれて、「ぶどうが食べたい!という息子の夢が叶った。食べても何の影響もでない。ありがとう。」と北海道から連絡をくれたこと。

私の夢であった「あのぶどうを腹いっぱい食べたい、農薬を使わないで作りたい」を叶えたことで、別の少年の夢も叶えることができて、本当に嬉しかった。今まで60年、諦めないでよかった。これからも「夢のぶどう」を作り続けて、たくさんの方に届けたい。

◎三隅さんの有機ピオーネは購入できます。

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編集後記

スーパーでみた巨峰が食べたい!そこから始まった三隅少年の夢が、なんと60歳を過ぎても続いているという、そのエネルギーに圧倒されました。不可能を可能にした人がコツコツと成し遂げた実話。私自身、胸があつくなりました。 (担当:Motty)

取材協力:亀の甲農園

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。
CATEGORY :農家さん

ライター情報

  • Noumusubi
  • Motty

    農むすび編集長。埼玉県深谷市出身。農家の孫。日テレAD時代、おしゃれカンケイを担当。農家さんの人となりをドラマチックに伝えたいと取材記事を書きはじめた。好きな農作物はメロン。農業は自然の恵みあってのもの。神社のお祭りで五穀豊穣を祈るのも、大切にしたいと思っている。

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