楽天ファーム誕生秘話。どうしてこんなバカなことを始めたのか?

楽天ファーム誕生秘話。どうしてこんなバカなことを始めたのか?
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最終更新日:2021.08.11 公開日:2017.12.14

2007年、愛媛県松山市で「日本を救え!農業で救え!」と一人の男が立ち上がった。楽天農業(株)代表取締役社長で楽天ファームの生みの親、遠藤忍(えんどうしのぶ)である。今回はその誕生秘話をお伝えしたい。

どうしてこんなバカなことを始めたのか

「ネットゲームで野菜を作る」
こんなバカなことを考え始めたのは、過疎に苦しむ地域の厳しい生活を目の当たりにしたことがきっかけでした。

検査技師として医療業界に勤め、検診で中山間地(ちゅうさんかんち)を訪れていた私は、痛い足腰を引きずりながら、ご先祖から受け継いだ大切な農地を一生懸命に耕していらっしゃる70歳~80歳の姿を見かけては「何とか出来んのか…」と、自分自身に叫んだものでした。

老人の孤独死が増え、学校は廃校になり、若者はますます減っていく…

これではいけない。田舎の過疎地に何らかの産業を作らなくては!
若者がやりたくなるような産業を作って、農村地域にお金を生める仕組みをを作れないか?と思い立ちました。

田舎の資源、耕作放棄地は宝の山

田舎の過疎地でお金に替えられるもの、それはもう農業しか見当たりませんでした。周りを見渡せば、耕作放棄地だけが溢れていたんです。

耕作放棄地って、実はオーガニック農家にとっては宝の山なんですよ。
普通に農薬をつかっていた農地だと、オーガニックの認証(JAS有機)をとるのに2年はかかるんですけど、耕作放棄地だと実は1年で認証がとれるんです。

【上の写真】は耕作放棄地です。かなり荒れ放題ですが、ビニールハウスの骨組みが残っているのがわかりますか?

【下の写真】は上のビニールハウスの骨組みを再利用して立てたものです。

現在このビニールハウスの中ではいちごの栽培を行っています。農法はオーガニックと同じですが、1年経つまでオーガニック(JAS有機認証)と呼べないので、今は無農薬とだけお伝えしています。

なぜオーガニックの「葉物」なのか

まず耕作放棄地っていうのは、条件が悪く、大量生産ができなくて放棄されたという場所がほとんどです。

大量生産ができるのは、広くて機械が入れやすい土地。それに対し耕作放棄地は、狭くて機械を入れにくい、手間のかかる土地。だから「安売り」ではなく「差別化」で勝負できる方法として、高価なオーガニックを選びました。

さらにオーガニックの中でも「葉物」は、ほとんど流通していない希少価値の高い作物でした。葉物は虫食いがあったらダメなので、お米や根の物(芋など)よりリスクが高くて、生産農家が少ないんですよ。

いわばオーガニックの葉物は、敵がいないブルーオーシャン!
新規就農者に、オーガニックで葉物を育てて、綺麗な状態で出荷できる技術を身につけさせれば、楽に農家で独立できる!だから「葉物」にこだわったというわけです。

お茶を飲んで発明!画期的な栽培方法

葉物をオーガニックで育てるノウハウは世間にはなく、自分で10年やってきて確立したんですけど、最初はやっぱり全然まともにできませんでした。

種を植えたのに、いつまでたっても芽がでない…
何度もトライするうちに、実は芽は出ていたけれど、すぐ虫に食われていたことに気が付きました。

農薬を使わずに、虫を撃退する方法はないだろうか?
畑で考えこんでいると、飲んでいたお茶のペットボトルを見て、閃きました!!!これの底を切って被せてみたらどうだろう?

世紀の大発明!!!しっかりと芽が育ち始めました。オーガニックで葉物はできないと、農家の間では言われていましたが、それが出来るようになったのです。

そしてペットボトルを使った農法が始ったわけですが…
「松山からきた変なにいちゃんが、畑にジュース植えてる。」と、畑の近所の人には、よく笑われたものです。

ピーマンを投げられ、全く相手にされない日々

若者が振り向いてくれる農業にしたくて、流行っていたオンラインゲームを参考に、インターネットで作物が栽培できる『遠隔農場テレファーム』を作りました。iPhone第一世代がやっと出る頃でした。

WEBシステムを作ったので、一緒に参加してくれる農家を探しに、公民館で説明会をしてまわりました。
だけどどこへいっても「インターネットで農業がなんてできるわけがない」「農業をバカにしてるのか!」と全く相手にされませんでした...。ピーマンを投げつけられたこともありましたね。

やっと話を聞いてもらえるようになたのは、スタートして3年、テレビに取り上げられるようになってからでした。
自治体などが話を聞いてくれるようになるまで、さらに2年かかりましたね。

それでもやっぱり参加してくれる農家はいなかったので、自分たちでやるしかないと、テレファームだけで運営をしていました。

遠隔農場テレファームから楽天ファーム(旧:ラグリ)へ

2016年6月、楽天が遠隔農場サービスを提供するテレファーム(現在は楽天農業株式会社)に出資、そして2017年4月に楽天ファーム(旧:ラグリ)として生まれ変わりました。

サービス名が変わってしまうのは寂しかったのですが、楽天と組むことで、最初にやりたかった「一緒に参加してくれる農家を集めること」が叶い、仲間が増えていくことが本当に嬉しかったです。

そしてオーガニックで葉物を育てる技術をもつ、新規就農者もどんどん育っていっています。緑のTシャツを着ているのが、楽天農業株式会社(旧:テレファーム)で新規就農をしたメンバーで、なくてはならない存在です。 (左上:上甲 幸乃、右上:祖母井 美香、下段左から:竹森 玄輝、兵頭 芳樹、森 達也、安岡 宏祐

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、みんなラグリの人気農家として頑張っていますので、これからも応援よろしくお願いします。

契約栽培で美味しかったもの

契約栽培はユーザーとしても楽しんでいます。以前に「スタッフ自腹買い」というメルマガを出したこともあったのですが、スタッフも喜んで使ってくれていて嬉しいです。「こんなバカなこと」を始めてよかったと感じます。

今まで頼んで美味しかったのは、お茶の明芳園 兵頭暁彦さんのお茶ですね。

有機・無農薬のお茶って珍しくて、めっちゃ美味しかったので、また来年お願いしたいと思っています。成長履歴も面白くて、ワラビが出たとか周辺の情報も送ってくれました。栽培開始は4月ですね。

大量生産できない特別なホウレンソウ

あと契約栽培で美味しかったものは、祖母井さんホウレンソウ(高ルテイン)。会社のメンバーならみんな作れるけど、祖母井さんは成長履歴が丁寧だから名前をあげてみました。

楽天農業(株)のホウレンソウは生でもいけるので、シーザーサラダは最高におすすめです!

生で食べる場合、ちょっと気をつけた方がいいのですが、硝酸態窒素(しょうさんたいちっそ) という体によくないといわれる成分が多い場合があるんですよ。火を通すと減るので心配はないんですけどね。
肥料をやりすぎると硝酸態窒素が増えてしまう傾向があるのですが、楽天農業(株)の農法だと硝酸態窒素が基準値よりはるかに低くでるので、生のまま安心して召しあがっていただけます。もちろん、お浸しやパスタなど火を通しても美味しいですよ!

楽天農業(株)の農法は、大量生産はできないんです。できないというかやっていないです。
ひとつの畑に全部ホウレンソウを植える、普通はそうやって大量生産をするんですけど、オーガニックでそれをやってしまうと、ホウレンソウを食べる虫がでたら、畑ひとつが全滅するじゃないですか。

一つの畑に少量づつ、たくさんの品種を植えていく。こうすることでリスクヘッジをしています。結構な手間がかかりますが、農薬を使わずに栽培するためのノウハウの一つです。

話は戻りますが、この時期のホウレンソウは格別です。気温が下がれば下がるほど、植物は自分の体を凍らせないために、糖分を蓄えるんですよ。甘くならないと凍ってしまうから、甘くなるんです。

産地直送!鮮度を大切にしています

野菜って鮮度がすべてなんで、お客様には朝その日に収穫したものを、その日のうちに出荷します。

例えばスーパーだと、農地から市場まで1日かかる、市場から店舗までまた1日かかる、店頭に並ぶのに収穫から2~3日経ってしまってますが、楽天ファームなら早くて収穫の翌日に届く。
するとお客さんから「ホウレンソウの根の部分を切った瞬間、パッと茎が広がる!」って言われるんですけど、これってやっぱり鮮度がいい証拠なんです。

野菜は収穫しても生きていて、呼吸をして糖分を消費するんですよ。古くなると甘みがなくなるのはそういうこと。
とうもろこしの採りたてがなぜ美味しいかというと、やっぱり甘みです。3日たったら全然甘くない。種なのでみんな糖を消費してしまうんです。
オーガニックのスイートコーンはめちゃくちゃ美味しいので、とにかくすぐに受け取って食べてください。スイートコーンはまた春になってからの楽しみですね。

ただし例外もあって、サツマイモやカボチャは、収穫してから寝かせてあげると糖度が増して、より一層おいしくいただけます。

こういった豆知識もラグリを通して、皆様に発信していきたいと思っております。今後ともよろしくお願いします。

編集後記

今回は楽天ファームの生みの親、遠藤忍 物語をお届けしました。
人のためにこんなに頑張れる人は、なかなかいないと近くにいて思います。こういった熱い想いを秘めた方が始めた「バカなこと」を、一緒に楽しみながらご理解いただけると、それほど嬉しいことはありません。
そしてホウレンソウは本当におすすめで、私もおかわりを栽培中です。(担当:Motty)

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。

ライター情報

  • Noumusubi
  • Motty

    農むすび編集長。埼玉県深谷市出身。農家の孫。日テレAD時代、おしゃれカンケイを担当。農家さんの人となりをドラマチックに伝えたいと取材記事を書きはじめた。好きな農作物はメロン。農業は自然の恵みあってのもの。神社のお祭りで五穀豊穣を祈るのも、大切にしたいと思っている。

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