退職金をつぎ込んで50歳からの挑戦!最新鋭のトマト農家で勝負だ

退職金をつぎ込んで50歳からの挑戦!最新鋭のトマト農家で勝負だ
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最終更新日:2023.09.29 公開日:2017.11.29

千葉県の八街市にやたらと熱いトマトおじさんを発見!バブル漂うバンダナに、知的なトークがとまらない大倉農園の大倉 淳伸(おおくら あつのぶ)さん。最新鋭のトマト栽培と熱い想いを伺いました。

退職金を全てつぎ込んだトマトのハウス

農家の長男だったのですがサラリーマン家庭に憧れた若かりし頃、親の意に反し会社に就職しました。あれからうん十年。両親もすっかり高齢で…そうだ!農園やろう!と、53歳で起業しました。

50歳の時、千葉大学の柏の葉キャンパスでみた農業に「これは面白い!これやりたい!」と感化されました。そうしたらちょうど会社が早期退職をはじめてくれたので、これはチャンス!と。3年後には退職金を全てつぎ込んで、最新鋭のトマトのハウスを、実家の隣に立てました。

あとは生計をつなぐために、ソーラーパネル(太陽光発電)も設置しました。ひとりで。

――――――この規模を全部?ひとりで?

はい、ひとりで。もともと半導体などの技術者で、電気工事士の免許も持っているんです。農地を使った太陽光発電を、農業以外の所得とする農園の事業モデルとして、将来はいろんな農家さんへ提案できればと考えています。

糖度だけじゃない!美味いトマトとは

「あれ?これうめーな!」

師匠のトマトを食べて、思わず口に出していうほど感動し、この栽培方法にしようと決めました。私の師匠は糠谷 綱希(ぬかや つなき)さん。師匠のお父様が作りあげた栽培方法を、私に指導してくれました。だから、美味いトマトができるんです!

トマトの美味しさは「甘み」と「酸味」と「旨味」のバランス。後で話しますが、酸っぱいトマトも甘いトマトと糖度が同じこともありますから、糖度計だけでは美味しさは計れない。3つのバランスが大事です。

一般的なトマトの糖度は4~6といったりしますが、大倉農園は5~6です。うちのトマトは糖度5を超えると、ちょうど酸味と旨味とバランスがとれて美味いですね!

今後は高糖度トマトと呼ばれる糖度8以上のフルーツトマトにも挑戦していきます。好みはありますがフルーツトマトを美味しいという人は多いですから!

青いトマトと赤いトマト、糖度は同じ

――――――完熟トマトを収穫するのですか?

やっぱり完熟まで木になっていると美味しいですよ。ただし 「完熟になった瞬間から老化が始まる」 のです。

だからプロのトマト農家としては、完熟まで自分の手元にあったら失敗。トマトは木から離れても、追熟して赤くなっていく性質があるので、お客さまが食べるときに最適な状態になるように計算して収穫しています。

ちょっと詳しくいうと、追熟は酸味が抜けていくことです。トマトが呼吸してエチレンを放出してクエン酸が分解されると酸味が消えていきます。ただし酸味はなくなっても、糖度はなくならないのですよ。

追熟の速さは温度が10度変わると2倍の差がでるんですよ。食べごろの色は、濃くて極めて赤に近いピンクです。だから届いてからもっと追熟させたいな~と思ったら、室内でしばらく放置してください。

うちのトマトは皮がやや硬めで日持ちも良いので、野菜室なら2週間は全然OKで、食味は落ちますが3週間過ぎても生食できます。熟しすぎてしまったらトマトソースにしたり、煮込み料理に使うのがオススメです。

トマトはドM?アメとムチの栽培方法

植物が本来の生命力をだすには、いじめたほうがいいんですよ。

――――――嬉しそうにいいますね?

この根っこ、わかりますか? 背丈2メートルにもなるトマトの根っこがコップ1杯の狭さに詰まっています。極少量培地耕というんですけどね、普通はバケツより大きな土(20ℓ)で育てるのに、コップ1杯(0.25ℓ)でいじめているんです。

もうトマトは気が気じゃないんですよ。水も、養分も、来たらガッツリ吸ったろ!と、狭いからこそ必死です。根域(こんいき)制限っていうんですけど、苗の状態からずっと狭苦しいストレス状態です。

そして土をつかっていないのもわかりますか?土の代わりに人工の鉱物繊維を使う「ロックウール農法」という栽培方法で、これがいじめやすい秘訣なんですよ。

ただ育ってる環境としては、トマトにしてみたらとんでもなく気持ちのいい空間。居心地は最高!

湿度の管理はミストをだして、環境を制御しています。見えますか?ミストの写真は「フォト映え」が難しくてね(笑)植物は乾燥すると葉っぱの裏の気孔が閉じちゃうので適度な湿気が大事です。

トマトの生育にもっとも影響するのが、日光と湿度なんです。今年の秋の長雨は大変でした。お日様がでないし、湿度が高くて茎が少し細くなってしまう。乾燥する時期はミストで対応ができますが、ジメジメしてると対応が難しいんですよ。

まじりっけなし!最新鋭の養液栽培

――――――この中には何が入っているんですか?

トマトに必要な肥料が水に溶けて入っています。これを養液栽培(ようえきさいばい)と呼びます。

トマトに限らず植物って、全部で18個の元素を吸って育つんですね。水以外で。多量要素の窒素、リン、カリウム、カルシウム、マンガン、微量要素のモリブデンなど。その18種類以外は吸わないと考えられているんです。

このタンクにはカルシウム以外の17種が入っています。カルシウムだけは、混ぜてしまうと沈殿してしまうので、隣のタンクにあります。

――――――養液栽培って、化学肥料なのですか?

よく誤解されちゃうんですけど、根が吸うのはイオンなんですよね。窒素のイオン、リンのイオン、全部イオンとして吸うんです。だから養液はまざりっけなし!雑味なし!のすごくクリーンなものなんです。

ここに入っているのは濃い液なので、希釈をしてあげています。水分管理は非常に大事なので、お客さまにはお世話をお願いするコメントをしています。

知識としてお伝えすると養液栽培には2種類あって、植物の根が液につかっている水耕栽培(すいこうさいばい)、あとは固形培地耕(こけいばいちこう)です。うちは土に近い後者で行っています。

スタッフが語る。大倉さんのトマト愛

――――――新井千里さんですね? 今は何をされているんですか?

はい森高さんと同じ千里です(笑) 今は苗を植えているところです。苗も芽の生え方によって、植える向きが決まっていて、そういう細かいところも教えてもらいながら作業をしています。

大倉さんのトマトは、とにかく手間がものすごくかかっているんですよ。私は地域の人を手伝ったり、家庭菜園をやったりしてトマトの栽培をみてきましたが、全然違う!もう全然!ひとつひとつを丁寧に、愛情をたっぷりかけているのがわかります。ここにくるようになって約1年ですが、どんどん美味しくなっている感じがします。

最近は、贈り物を大倉さんのトマトにしています。みんな 「美味しかったよ!」 と喜んでくれるので、私もとても嬉しいです。

家族の力が集結!かわいい化粧箱を考案

――――――贈り物の箱があるんですね?

ええ、ちょうどお客さん向けに改良中なので、ハウスを出て、妻と一緒に紹介しますね。

【奥様】こんにちは。遠いところまでお越しくださりありがとうございます。本当にやさしい主人でね(笑)仕事もそうですけど、家のことや娘の勉強をみたり、何でもまめにやってくれるんです。

――――――それは素敵ですね

【奥様】ええ、私も農家育ちで、農業の大変さを知っているから、まさかこうなる(退職金をつぎ込んで起業)とは思ってなくて…まだ完全に受止めるのはむずかしいんですが、頑張っている姿を見ていると、なんだかんだ応援しちゃいますね。

【大倉さん】普通トマトの箱は4kg入りなのですがそれだと大きいので、半量の箱(2kg)にしました。4kgのときは2段重ねて、スリーブで化粧します。お客さんには、そのまま冷蔵庫に入れられたり、空き箱を再利用できたりという体験を提供したいと思っているんです。

妻が見つけたのですが、栽培の見える化やコト消費という、消費者との近さに、これはやりたいと思いました。そして娘には、私のトマトをスマホで栽培してもらって、お客さんからどう見えるか、娘の意見ももらうようにしています。

【奥様】娘も協力してくれて、このイラストも娘が描いたんです。

【大倉さん】親ばかですが、うまいでしょ(笑)マルハナバチのオスがモデルです。受粉に活躍してくれるのはメスなんですが…

オスはこの通りゴールド!ゴージャス!なんですが、メスは黒くて地味なんです。巣箱には最初メスだけいて、どんどんお仕事をしてくれるのですが、しばらくするとオスがでてきて、そうすると巣箱の交換となります。だからこれ、写真としては貴重な映えるショットです(笑)

夢は、娘が継ぎたくなる農家

自分が描くビジョンは、地元の家庭の毎日の食卓に「大倉さんのトマト」があって、食卓を賑わし健康も維持されるそんな風景。だから「選ばれる農家さん」にならないと!

そんな農家なら私もなりたい!と、若い人たちに言ってもらえるように、労働時間を年2,000時間、収入もサラリーマン並になる仕組みを整えて、新規就農者や既存農家さんを支援する地域のサポーターになりたいですね。

そして10年後には、娘が経営を引き継ぎたくなる農家になっているのが夢であり目標です。

これからも「映え」る写真を撮って、美味しい大倉さんのトマトを届けますので、さぁ~ガンバっぺ!
◎大倉農園のミニトマトは楽天ファーム楽天市場店でご購入いただけます!

取材協力:大倉農園

編集後記

1つ質問すると、100倍くらい返してくれる大倉さん。起業して1年だと思えない知識量でメモが大変でした。
情熱だけじゃね~と、プロの農家資格や千葉県エコ農家認定の審査も受け、銀行の融資までとりつけたとか。ありえない快進撃。なによりお客さまに喜んでもらいたい!と、ご家族と一緒に試行錯誤をされていることに感動し、私もがんばろうと思いました。
あ~大倉さんのトマトが食べたい!(担当:Motty)

  • この記事の情報は掲載開始日時点のものとなります。
  • 農作物は、季節や天候などにより状況が変わります。
  • 掲載内容は予告なく変更されることがありますのでご了承ください。
CATEGORY :農家さん

ライター情報

  • Noumusubi
  • Motty

    農むすび編集長。埼玉県深谷市出身。農家の孫。日テレAD時代、おしゃれカンケイを担当。農家さんの人となりをドラマチックに伝えたいと取材記事を書きはじめた。好きな農作物はメロン。農業は自然の恵みあってのもの。神社のお祭りで五穀豊穣を祈るのも、大切にしたいと思っている。

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